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ばけものはあまだれ
『化け物は雨だれ』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔があったと。
 あるところに臆病(おくびょう)な父(と)っつぁがおったと。
 おっかながりで、夜はひとりで小便(しょうべん)しにも行かれず、いつも、かかについて行ってもらっていたと。
 ある日のこと、父っつぁが村の集まり行ったと。晩方(ばんがた)になったので、あわてて家へ帰ったと。暗くなりかかって、おっかなおっかな家へ着いて、やれまあ、よかった、と家へ入ろうとしたら。ヒャッと冷(つめ)たい何かが、首ねっこをおさえたと。
 父っつぁは魂消(たまげ)て腰(こし)を抜かしたと。

 
 「ウヒャー、かか、かか、化け物が出たぁ、助けてくれぇ」  
 「馬鹿(ばか)父っつぁ、いい年こいて何だってがんだ。化け物なんか、いねもんだ」
 「い、いや、いる、いるう。今、ひゃっこい手で化け物がおらの首ねっこをつかめぇているがぁ」
 「どれ、どれが化け物だ」
と、かかが見たら、何のこたぁねぇ、父っつぁの首に屋根(やね)の雨だれが落ちている。 
 
 「ほーれ、見れ、これは雨だれだがな」
 「ほんとうだ。ほうしゃ、化け物はみな雨だれだか」
 「ンだ。化け物なんかいねんだすけ、何でもおっかながっちゃ、なんねぇだ」
 「そうか、ようわかった。化け物てや、みんな雨だれだな。そうせば、今日からはおら、もう何もおっかねぐねど。これで気がらくらくしたど」


 これからというもの、父っつぁはうんと気が強くなって、恐いものがなくなったと。
 その頃、隣(となり)町では、毎晩のように化け物が出て、夜になると通りが止まっておったと。
 父っつぁはこの話を聞いて、
 「そんつぁ、どうせ雨だれだがな。その化け物を俺が退治(たいじ)してくれら」
というて、隣町へ物干し竿(ものほしざお)一本持って出かけたと。
 隣町の人っ気のない夜の道に立って待っていたら、出たと。頭が無くて、胴(どう)ばかりが太い、カメみたいな化け物が、ほっそい足でヒョロンコ、ヒョロンコ歩いて来たと。
 そして、
 「とびつこーん、とびつこーん」
というのだと。

 父っつぁは少しもおっかながらずに、
 「とびつかば、とびつけ。雨だれなんか知れたもんだ」
といいながら、竿で化け物の尻(しり)を、チョン、チョンとつっついた。そして、化け物を追い追い、橋の上まできたら、橋の真ん中あたりで、その化け物がツルンと橋の下へもぐり込んだと。


 「この雨だれ、どこへ失せこけやがった。出てこい、出てこい」
と、化け物の潜りこんだ川の中を、橋の上から竿で突っついたら、チャンチャラリンと妙な音がしたと。
 「何だか、おっかしな音がしたど。何だろ」
と、川の中へ下りて見たら、川の中に大っきな瀬戸(せと)のカメがあって、その中に、大判小判(おおばんこばん)がザックザックと入っていたと。 
 「ほお、こらまあ、大した宝物だが、一体どうしたがだろ。妙(みょう)なこともあるもんだ」
というて、川からカメを抱き上げたと。
 そしたら、その金ガメが口をきいたと。


 「昔、おらは金持ちのお父っつぁの持物だったがだども、お父っつぁがおらをここに埋(う)めて隠(かく)したまま死んでしもた。誰も知らねがだし、おらも一生の間、このひゃっこい水ん中にいるがんもいやだし、世に出て誰かに使ってもらいたいと思うていた。どうせなら、勇気のある偉い人に使ってもらいたいと思うて、毎晩出ては人を探していたども、どれもこれも肝(きも)のないおっかながり屋ばっかで、おらを見ると魂消て逃げてしまうすけ、ほんとうに張り合いがなかった。
 ところが、お前さんは偉いもんだ。ちっともおっかながらんで、おらの後を追いかけて来て金ガメを見つけてくれた。
 どうか、お前さんの好きなようにして、おらを使ってくんねかい」 
と、こう金ガメに頼(たの)まれては、父っつぁもいやとはいえん。その金ガメを家に持ち帰って、その金で、かかと一生安楽に暮らしたと。

 いきがぽぉんとさけた。 

「化け物は雨だれ」のみんなの声

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