民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 良い行いで宝を授かる昔話
  3. 花咲爺

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

はなさかじい
『花咲爺』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 武田 正

 むかし、むかし、正直な爺(じ)んつぁと婆(ば)んちゃいだっけど。
 ほうしてある時、畑さ稼(かせ)ぎに行くべと思ったれば、白い犬コ、はぁ捨(す)てらっで、ひんひん、ひんひんで、尻尾(しっぽ)、股(また)さはさんで泣いだんだけど。
 「おお、可哀(かわい)そうだ、どれどれ、家さ行くべ」
 て、連れて来だ。
 「ほらほら、まずご飯食え、魚食え」
 て。だんだえ、だんだえ大きくなっで、色もええぐなって、真っ白くなって、すばらしくええ犬になった。
 

 
 ほしたれば、ある時ほの犬、爺んつぁと婆んちゃさ、
 「おれ、捨て犬だったげんど、こだぇ一生懸命(いっしょうけんめい)かわいがられて大きくしてもらっだ。恩返(おんがえ)しに金掘(かねほ)り連れて行ぐ。カマスもつけろ クェン、クェン、クェン。唐鍬(とうぐわ)もつけろ クェン、クェン、クェン」というだ。
 
 爺んつぁ、大八車(だいはちぐるま)さ、カマスも唐鍬も乗せて行ったれば、
 ここ掘(ほ)れ ワンワン
 ここ掘れ ワンワン
 という。ほこ掘ってみたれば、銭(ぜに)と金ぁ、ざくざく、ざくざく出てきた。
 ほいつ、家さ持って来たれば、隣(とな)りの爺んつぁと婆んちゃ、ほいつ見っだけ。
 「なぜして、銭と金、お前(め)の家にそんなになった」
 て聞いだ。


 爺んつぁと婆んちゃ、正直なもんだから語ったて。そしたら、
 「ほの犬、おら家さ貸(か)してけろ」
 「いや、貸さんねっだな」
 「いや、貸せ」
 ていうて、びりびり持って行った。ほして、犬が、ここ掘れワンワンいわなかったら、自分から「ここらか」なて言うて掘り始めた。
 ほしたれば、牛のビタ糞(ぐそ)なの、カワラなの瀬戸欠(せとか)けなのばりガチャガチャ出てきた。
 ほしてはぁ、頭さきて、その犬殺(ころ)してしまった。
 正直な爺んつぁ、なんぼ待ってでも犬帰してこないので、もらいうけに行ったれば、はぁ殺してしまったはぁて。
 「ありゃぁ、殺してしまったなて、ほんでは仕方ない。亡骸(なきがら)ばりも呉(け)てけらっしゃい」
 て。爺んつぁ、白の亡骸をもらって来て、ねんごろに葬(ほうむ)って、ほこさ一本の松の木植えだ。


 ところが、ほの松の木たちまち太くなった。爺んつぁ
 「ああ、こだえ太くなってはぁ、こりゃ臼(うす)でもこしゃえるにいいべなぁ」
 て、ほの松の木きって臼こしゃえで、餅搗(もちつ)いてみたれば、ほの餅、むっくり、むっくりふくらんで来で、中から銭と金、またざくざくと出てきた。

 はいつ(そいつ)、隙間(すきま)から隣の爺んつぁと婆んちゃ見っだけあぁ。
 「ほの臼、おら家さ貸せ」
 「いや、今度ぁ貸さね」
 「だめだ、貸せ」
 て、持って行ったけぁ、いきなり餅ふかして餅搗(もちつ)きはじめた。
 ほしたれば、何と、やっぱりビタ糞などばりベッチャラ、ベッチャラ出てきた。
 はぁ、餅も食えんねぐなってしまったはぁ。
 ほしてはぁ、臼、いきなり斧(おの)でぶち割ってしまって、カマドさくべて、焚(た)いてしまった。


 正直な爺んつぁ、なんぼ待っても臼返してこないので、もらいうけに行ったれば、
 「ありゃ、ビタ糞なのばり出はっから、焚いてしまった」
 て、はぁ。
 「ありゃあ、焚いてしまったんでは仕方ない。ンでは灰(あぐ)ばりも呉(け)てけらっしゃい」
 て言うて、灰持ってきた。
 ほしたれば、風でほの灰ぁぴらぴらと飛(と)んで、掛かったどこさ、みな花咲いた。
 「ありゃりゃ、不思議(ふしぎ)なこともあるもんだ」
 丁度(ちょうど)そのとぎ、殿(との)さまがお通りになった。
 正直な爺んつぁ、
 「花咲かじじい、花っ咲かせてお目にかけます。花咲かじじい、花っ咲かせてお目にかけます。」
 て、大声でどなった。灰(あぐ)をばらばらまいたれば、ほこらここら、みな花だらけになった。梅の花、桜の花、桃の花、きれいだもんだ。


 殿さま、馬の上から
 「あっぱれであるぞ。行き手に花咲かせてくれるとは、とても縁起(えんぎ)がええ。褒美(ほうび)をとらす」
 て言わって、御褒美(ごほうび)いっぱいもらった。  ほいつ見っだ、隣の爺んつぁ、
 「よし、あの灰なら、おら家にまだあんぞ」
 て、いうわけで、灰でっすら(いっぱい)持って、ほの殿さまお帰りになったどき、 
 「花咲かじじい、花っ咲かせてお目にかけます。」
 ていうて、風上(かざかみ)さ行って、ほの灰、おっぷらまわしたれば、殿さまから家来から、みな眼(まなぐ)さ入ってしまった。
 「無礼者(ぶれいもの)、とりおさえろ」
 ていうわけで、隣の悪い爺んつぁ、取り押さえらったけど。
 んだから、悪いごどざぁするもんでないて、昔の人ぁ言うたもんだけど。

 どんびんからりん すっからりん。
 

「花咲爺」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

樵夫の殿様(きこりのとのさま)

むかし、あるところに樵夫(きこり)の父(とど)があったと。春の天気のいい日に山へ木を伐(き)りに行ったと。カツン、カツンと木を伐りながら傍(かたわ)…

この昔話を聴く

鶯女房(うぐいすにょうぼう)

昔、あるところに一人の男があったと。あるとき、村で牛の角突きがあったと。男は牛の角突きを見に行ったと。そしたら、たくさんの見物人のなかに、今まで見た…

この昔話を聴く

縁起担ぎ(えんぎかつぎ)

むかし、あるところに大層縁起かつぎの長者がおったと。  ある年の正月、村の和尚さんが正月膳に招ばれて長者の家に行ったと。  たくさんのご馳走だ。和尚さんはおれも食べこれも食べして大いに満腹したと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!