― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかしむかし、あるところに長者殿と貧乏な爺さ婆さとが隣あってあったと。
両方の家にネズミがいたと。
長者殿のネズミはまるまると太り、爺さ婆さのネズミはやせネズミだったと。
あるとき、爺さ婆さの家の天井裏から、ドッコイ、ドッコイと声がしたので、爺さがのぞいてみたら、長者殿のネズミと爺さ婆さとこのネズミがスモウをとっていた。爺さ婆さとこのやせネズミがころころと転がされていたと。
長者殿のネズミが、
「おまえは本当に弱いなあ」
というたら、爺さ婆さとこのネズミは、
「仕方ないさ。爺さと婆さだってたいしたもの食うとらんのに、おらたちが腹いっぱい食う分(わ)けにゃ、いかんもん」
というた。
これを見て聞いた爺さ、婆さと語(かた)らって、力餅(ちからもち)を搗(つ)いた。出来上がった力餅を、まず、神棚に供え、拝(おが)んでから、お下(さが)りを天井裏に置いてやった。
やせネズミたちは、よろこんで食うたと。
その晩、また天井裏で、ドッコイ、ドッコイと声がしたので、爺さがのぞいて見たら、こんどは長者殿の太ったネズミがころころ転ばされていた。長者殿のネズミが、
「おまえ、どうして急に強くなったや」
ときいたら、爺さ婆さとこのネズミは、
「おらとこの爺さと婆さ、力餅こさえて、神棚に供えてから食わせてくれた」
というた。
「ふーん。俺家(おらえ)の長者、ケチで、一ぺんもなさけかけてもらったことねぇ。おめえがうらやましい。おらもその力餅食うてみたいなぁ」
「そんなにうらやましいなら、明日にでも力餅こしらえてもらってもいいけど、なにせかにせ、おら家(え)の爺さと婆さ貧乏で米持たずだからなあ。おまえたち、長者殿の銭コちょっこし持ってこい」
というた。
その晩おそくに、長者殿のネズミたちは、小判一枚ずつ持ってやってきたと。
爺さと婆さ、その銭コで米買(こ)うて、力餅搗いた。神棚に供え、お下(さが)りを土間に置いてやった。
「うちのネズミも長者殿のネズミも、こっちで食えばいいで」
というたら、爺さ婆さのやせたネズミも長者殿の太ったネズミも、みーんな土間に集まって力餅を食うたと。
婆さが赤い布と白い布でまわしを作ってやったら、それをしてスモウをとったと。
ドッコイ、ドッコイ
それ押せ、やれ踏んばれ
ドッコイ、ドッコイ
って。こんどは長者殿のネズミも爺さ婆さとこのネズミも、いい勝負だと。
次の晩も、その次の晩も長者殿のネズミたちは小判を持ってやってきて、力餅を食い、スモウをとっていく。
そんなことがたび重なっているうちに、長者殿の家はだんだんに銭コがなくなり、貧乏だった爺さ婆さの家に銭コが貯(た)まって、しまいには長者殿を負かすぐらいの長者殿になったと。
ああ目出(めん)たい めんたい
あんまり昔コ語(かた)っと、天井からネズミコの小便コ降るどナ。
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むかしむかし、日本に仁王という男がおって、力持ちでは日本一だったと。あるとき、仁王は八幡さまへ行って、「唐の国には、“どっこい”という名の力持ちがいるということだから、わしはそれと力競べしてくるべと思うとるが」と、お伺(うかが)いをたてたと。
「ネズミのスモウ」のみんなの声
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