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へっぴりよめこ
『屁っぴり嫁コ』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔(むがす)、あるどこさ、屁(へ)っぴり姉(あね)コ居(え)だけド。
 嫁(よめ)さ行ぐどき、親達(おやだつ)がら、
 「お前(め)の屁っコァ、並はずれで大(で)っかいがら、屁っコひる時ァ不調法(ぶちょうほ)すねよに、良ぐ気ィつける事(ごん)だえ」
って、教(おせ)られって行ったけド。
 嫁コァ、毎日よく働いだげんとも、だんだん顔色青ぐなって、なんだが病気づいだみでらけド。婆(ば)さまァ、
 「なァ、なァ、嫁コや嫁コ。どごが身体(からだ)悪りどこあんでねが。遠慮すねで言(ゆ)わねど、だめだぞえ」
って、聞いたけド。ほしたら嫁コ、 
 「俺(おら)ァ、恥(しょう)しくて今日まで言(ゆ)え無(ね)がったなよス。どこも何(なん)たァないげんと、嫁さ入って来てから、三月越(みつきご)し屁っコ耐(た)えて来たんだっス」


って、言うけド。したら、婆さま、
 「何の、何の。屁っコの一づ二づ放(ひ)らね人ァ、世の中さ無いべさや。恥しも何もあるもんでね。一づ、放(ひ)ってござれ」
って、許して呉(け)だけド。


 「ほんでも、俺の屁っコァ、並の屁っコでァないのス」
って、言(ゆ)うど、爺(じ)も婆(ば)も兄(あんに)ゃも、
 「何の、何の」
って、言ったけド。嫁コ
 「ほんでァ、一づ、ごめんして呉(け)らっしゃえ。爺様ァ臼(うす)の中さ隠れてござれ。婆様ァ大黒柱(だいこくばしら)さすがりついてござれ。兄(あんに)ゃは炉(いろり)ぶちさつかまってござれや」
って言ってがら、嫁コ尻(けっつ)まぐって、
 「ボァーン」
 って、大砲(おおづつ)みでな屁っ放(ひ)ったド。


 ほしたれや、ほの勢(いきおい)で爺(じ)や婆(ば)や兄(あんに)ゃ、庭はンずれまで吹っ飛ばさったけド。ほんで兄ゃ、
 「いやいや、なんぼなんでも、こがえ大(で)っかい屁っコだとは思わねがった。こんなんで吹っ飛ばされ吹っ飛ばされしては、身体たまんねがら」
って、嫁コば生(うま)った家さ送り返すに行ったけド。
 峠越(とうげごえ)して、大きい川まで来っと、川の真ん中さ千石船(せんごくぶね)が、風コ無(ね)くて帆(ほ)をだらりどして、動がねくて困ってだけド。 船頭(せんどう)衆ァ艪(ろ)ォこぐべや棹(さお)さすべや、ってやっても、ちえっとも動がねけド。
 川っ縁(ぺり)で見た嫁コァ、
 「まずまず、何たら事(ごん)だべ。大(だい)の男達(おとこしたづ)かかってよォ。俺(おら)なの、屁っコでも動がして見せられるものを」
って、笑ってだけド。船頭衆(せんどしゅ)ァ、これ聞いで、
 「なに馬鹿言(ゆ)う事(ごん)だ、この姉(あね)コ。んだら、屁っコで動がして見ィ。船コ動いだら千石の半分、呉でやんべァ」
って、言ったけド。


 ほんで、嫁コァ、
 「ほれ本当(ほんて)なら」
って聞いたけド。
 「本当もなんもあったもんでね。呉てやんべ」
 「ほんだら、船頭衆ァ船の底さ隠れてござれ」
 嫁コ尻まくって、屁っコ一づ、
 「ボワーン」
って、放(ひ)ったけド。
 したら、千石船ァ、ツエン、ツエンって動き出したけド。船頭衆ァ、
 「約束ァ約束だ。半分呉(け)でやる事(ご)で」
って、米俵(こめだわら)でっすり貰(もら)ったけド。
 ほしたら兄(あんに)ゃ、屁っコもたれ様(よ)で得する事(ごん)だ、どて、嫁コば返すの惜(おし)ぐなって、二人して俵コ背負(しょ)って、家さ戻って来たけド。


 ほれまではどこの家も、家ン中はガランとした広間だげで、仕切りは屏風(びょうぶ)コ立てまわしていだもんだけど、兄ゃ、今度(こんだ)ァ戸で仕切りして「屁屋」こしらえだと。
 嫁コァ、屁っコ出だぐなっと、そこさ入ってするようにしたけド。
 ほれがら、「部屋」って呼ぶようになったんだけド。

 トッピン、カラリン、ナエケド。 

「屁っぴり嫁コ」のみんなの声

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