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だいこんむかし
『大根むかし』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかしとんとんあったんだけど。
 ある村で、くる日もくる日も雨降らねで、どこの家でも大根、白菜(しろな)、なんだて野菜もの蒔(ま)いたげんど、ほとんど出ね。
 「困ったこと始まった。こりゃ、大根餓死(だいこんがし)だ、今年ぁ野菜餓死だ」
 ほだいしているうちに、与助さんの家だけ大根一本出たんだど。
 「はあ、ほんでは仕方ない、村中みんなして、そいつさ肥料掛(こやしか)けんべはぁ」
 ていうわけで、馬糞(まぐそ)とか人の下肥(しもごえ)とか、いろいろな肥料をかけだんだど。
 ほうしたれば、おがるおがる。おがってしまって、はあ、銀杏(いちょう)の木みたいに太(ふ)っとぐなってしまったんだどはぁ。


 「はぁ、このあんばいでは村中で食っても大丈夫だ」
 いよいよ大根引きの季節になったもんだから、村中して、そいつさ橋綱(はしづな)かけて、
 橋綱っつうのは、毎年村中の人が組単位で綱打ちする、太い綱。ワラで三本よりこにして、ワッショ、ワッショって。さしわたし十センチもあるようなやつ。
 その綱で大根さ引っかけて、ワッショ、ワッショって引っこ抜いた。ほして土橇(つちぞり)さ乗せて引っ張って来た。


 ところが、そん時は秋で、いま少しで雪降るっていう時だから、山陰(やまかげ)で雪降(ゆきおろ)し様(さま)鳴った。
 雷がゴロゴロ、ドドッて、すばらしい音たてた。
 したれば、その太根が、メクメク、メクメク泣いたんだど。


 「大根どの、大根どの、なして泣いだ」
 「今んなぁ、大根おろし様でないか」
 「いやいや、大根おろし様でない。雪おろし様だ」
 「ああ、ほんでえがった。あの音ぁ、大根おろし様だと思って、おれぁぶったまげた」
 「したども、しゃべることの出来る大根では、食うことは出けん。村の広場さ置くべはぁ」
 って、村の広場さ置いだんだど。
 ほして冬になったど。
 そしたら、その大根のために吹雪など、そこに止まって来(こ)ね。夏は夏で日陰になって涼むのにきわめてええ。
 んだげんども、その大根が大飯食(おおめしぐ)いで、相当肥料くれねばどうもおかしげになる。
 ほんでみんなして肥料して、また秋が来た。台風が来る頃でも、村にはさっぱり台風が来ねがったんだど。
 んだげんども、何だか、大根を食わねぇで肥料すんのは無駄なような気ぃして、みんなしえ大根さ言うたんだど。


 「大根どの、大根どの、おまえ稼(かせ)ぎもすねで寝てばりいて、毎年大きくなったて、何にもなんねんねが。この村から出て行って呉(け)ろはぁ」
 だれば、大根が苦(にが)い顔したっけぁ。
 大根は、みんなに追い出されて、すごすごと、どこかさ姿消したんだどはあ。
 
 ほうしたればその年から、嵐はくる、吹雪はくる、日陰にもならね。みんなひどい目にあったんだど。
 「あの大根、どこかに居ねべかはあ」
 って、探したげども、その大根いねんだけどはあ。
 「どこいったべ」
 って、みんなで考えてみたれば、その大根に一枚の葉もながったんだど。こいつが本当の「ハナシ」だ。

 どんぴんからりん、すっからりん。

「大根むかし」のみんなの声

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