― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
とんと昔、あるところにオドとカカがおったと。
初児(はつご)子のお産が始まって、カカがウンウン唸(うな)っているそばで、オドは気ぃもめて気ぃもめてならない。
「オレ、産神様(うぶがみさま)を迎えに行って来る」
とて、子負帯(こおいおび)を持って山ふもとの地蔵堂(じぞうどう)へ行ったと。
真夜中のこととて、松明(たいまつ)焚(た)いて行ったら、雨が降って来た。
「やぁや、まだ産神様と行き会わねぇというのに、こりゃぁ困ったこんだ。はて、なじょすんべ」
とて、あわてて駆(か)けて、山ふもとの地蔵堂に飛び込んだと。
やれやれ、とて雨宿りしているうちに気ぃゆるんで、ウトウトねむりかけたと。
そしたら、外に誰やらやって来たふうで、
「やぁや、地蔵様、今、村でお産が始まったから、運定(うんさだ)めに行くべゃあ」
とて、呼ばる声がしたと。そしたら地蔵さんが、
「やぁや、せっかくの誘いらけんど、オラ、今夜お客様あって行きかねる。お前さん一人で決めてやってけろや」
とて返事したそうな。
「そうか、お客さんならすかたね、オラ一人で行って来んべ」
とて、外の誰やらは遠去(とおざ)かったふうだと。したが、間もなくして、またやって来て、
「やぁや地蔵さま。無事にヤヤコが生まれた」
「そらよかった。産神様や、その子の定めはどんなんですかや」
「んだ、その子は五つの五月節句までら。こりゃ、川の主さあげる命だな」
「そうか、そら御苦労さまらったす」
とて、問答して、また、遠去かって行ったと。
地蔵堂の中に行たオドは、
「はあて、今のはオラのカカの事だべか」
思うて、あわてて家に帰ったと。
家に戻ったら、オギャー、オギャーって、男の子が生まれておったと。
「あの神様の問答、やっぱりオラどこのことだったか」
とて、この事をカカにも話さずにいたと。
その子は五つまで何事もなく育ったけど、とうとう、気がかりな五月節句の日がやって来たと。
所の習慣(ならい)で、五月節句にゃ、魔除(まよ)けとて、屋根に蓬(よもぎ)と菖蒲(しょうぶ)を葺(ふ)いて、菖蒲湯とか菖蒲酒ってのをしたり、菖蒲鉢巻きとか菖蒲髪とか、何でもかんでも、臭い蓬と菖蒲を身に付ける。そして、若い笹の葉を取って来て、三角の笹巻(ささま)き飯(まんま)をこしらえるもんだ。
その子が笹巻き飯を持って、家の前の川で遊んでいたら、川から小童(こわらし)が出て来て、
「オレと遊ぶべやぁ」
とて、呼ぶんだと。その子が、
「笹巻き飯やるから、こっちさ来いちゃ」
言うたら、
「お前(め)、菖蒲くさくて、そばさ寄られねぇ」
って言う。
「んだら、ほらやっ」
って、笹巻き飯を投げてやったら、小童の眼(まなぐ)さ刺ったと。
「痛てて、痛てて」
って、どかすか逃げて行ったと。
その声でオドが外へ出て、よおっく見たら、その小童は河童(かっぱ)だったと。
その子は、笹巻き飯で河童の難(なん)を除(よ)けて、それから、うんと長生きしたと。
五月節句の笹巻き飯は魔除けになるんだと。
ドンピン サンスケ サルマナグ。
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むかし、信濃(しなの)のある村の坂の上にポツンと一軒家(いっけんや)があり、ひとりの婆(ばば)さが住んでおった。 婆さは男衆(おとこし)が呑(の)む酒を一口呑んでみたくてしようがなかったと。
むかし、あるところに富山(とやま)の薬屋があった。 富山の薬屋は全国各地に出かけて行って、家々に置き薬していた。一年に一回か二回やって来て、使った薬の分だけ代金を受け取り、必要(いり)そうな薬を箱に入れておく。家の子供(こども)は富山の薬屋がくれる紙風船を楽しみにしたもんだ。
「五月節句の笹巻き飯」のみんなの声
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