― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに大分限者(おおぶげんしゃ)がおって、ひとり娘に聟(むこ)をとることになったと。
聟は村の衆から選ぶことになって、村中に高札をたてたと。
「自選他選を問わず。われこそはと思う者来(こ)られたし。来た者には金一分(きんいちぶ)をあげます」
大金持ちでとびっきり美しい娘となりゃあさわがない方がおかしい。村の中は、この話でもちっきりになったと。
いよいよ聟選びの日、村は、ワイワイガヤガヤ、まるで祭りのようだったと。
大分限者は、
「どれ、ちょこっと見てこよう」
と、門の外へ出ておどろいた。
「ありゃあ」
聟選びだというのに、子供から女房持ち年寄りまで、村中の男という男がこぞってやって来とったと。そして、
「御当主さまあ、聟になれんでも一分はもらえるのう」
「もらえるのう」
と、くちぐちに言うんだと。
やがて聟選びが始まり、年寄り子供は一分づつもらって見物にまわったと。
聟選びは、最後に三人の男が残ったと。
そこで大分限者は、
「裏山から松の木をころがすから、下でおさえてみよ」
と、言いつけた。
はじめの一人は軽そうに受け止め、次の者もこわごわ受け止めたと。三人目の男は、順番を待つ間に大分限者の家の裏側で、
「こいづは困ったこんだぞ。へたすると死んじゃうなぁ」
と、尻込みしていると、どこからか子守唄がきこえてきた。
う―らの 松の木 どんころは
紙でこさえた どんころだぁ
おとこは、紙ならどうってことはない、と、なんなく受け止めたと。
これで決まらなかったので、次に大分限者は俵(たわら)を二つ下男に持ってこさせて、三人の男に、
「この二俵の中に、何がどれほど入っているか言い当てよ」
と、言いつけた。
はじめの一人は当てずっぽうを言い、次の者も当らなかったと。
三人目の男は、順番を待つ間、また家の裏側へ行って、
「さっぱりわからん」
と、考えていると、また子守唄がきこえてきたと。
あ―わと き―びと 一斗五升だあ
男は、どうせわからんのだ、あれを言っちまえ、と、
「アワとキビが一斗五升づつ入っている」
と言うと、その通りに当たって、とうとう聟殿におさまったと。
祝言が終って嫁さんが言うには、あの子守唄は、実は嫁さんが手伝いの娘に歌わせたんだと。
とっぴんぱらりのぷう。
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「娘の助言」のみんなの声
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