― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 和田 寛
再々話 六渡 邦昭
むかし、瀬戸(せと)に彦左という力のめっぽう強い男がおった。
ある夏の日、古池(ふるいけ)という大きな溜池の下手(しもて)にあるたんぼで一日じゅう草取りをして、日が暮れかかったので家に帰ろうとしていると、
「おっちゃん、おっちゃん」
と、声を掛けるものがある。
だれだろうと思って、振り返ると、田のあぜに河童が立っておる。海に住む河童が陸(おか)に上がってきたらしい。
と、いうと、
「おっちゃん、相撲とろう」
との返事。
力自慢の彦左のことだから、いつもなら、
「おお、いっちょうやろうか」と受けてたつところだが、このときばかりは晩ご飯前で腹を空かせておったので、
「こんなたんぼの中ではやりにくい。どうせやるからには白良浜(しららはま)へ行って、広いところでやろう」
と、いって、白良浜まで連れて行くことにした。
彦左は途中で自分の家へ寄って、急いで仏壇に供えてあるご飯を食って腹ごしらえをした。仏壇に供えたご飯を食うと力が出て河童に尻を抜かれないと昔からいわれておるからだ。
さて、白良浜へ着いた彦左と河童はがっぷり四つに組んだ。力はまったく互角。長い長い勝負になった。
あまり長びいたので、さすがの彦左もふらふら。仏壇のご飯を食ってこなければとっくに負けている。
一方、河童の方も力をこめて動くたびに頭のてっぺんから水が飛び出して、だんだん力が弱くなり、とうとう彦左に投げられてしもた。
いやというほど腰を打ちつけ動けなくなっている河童の首筋を押さえつけて、彦左はこういった。
「どうだ、思い知ったか。これからは陸(おか)へ上がってきてはならんぞ。もし万が一、この白良浜が黒くなり、沖の四双島(しそじま)に松が生えたら、そのときに上がってこい」
河童は小さくなって海へ逃げ帰ったが、次の日から大仕事をはじめた。
河童は白良浜に墨を塗り、四双島に松の苗木を植えはじめたんだ。
瀬戸鉛山村(せとかなやまむら)の人たちはびっくりしたが、彦左は平気の平左、別に恐れもせず、ただニタニタと笑っておった。
何日かたって、白良浜がやや黒っぽくなり四双島に松の苗木が植わったころ、大波がきて、これらをすっかり洗い流してしもた。
何回やっても、何回やっても同じこと。
とうとう河童はあきらめて、瀬戸鉛山の地には寄りつかなくたったんだと。
もうそんだけ。
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むかし、百姓(ひゃくしょう)は、ただ下積(したづ)みになって暮らして来たわけだナス。 干魃(かんばつ)で苦しみ、冷害(れいがい)で泣がされ、年貢米(ねんぐまい)の割り当てでは役人にしぼり取られでス。
「彦左と河童」のみんなの声
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