― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかしの大昔。
ある山に兎と亀とフクロウが仲良う暮らしていたんやと。
ある日のこと、兎が亀にこう言うんや。
「亀やんよう、昔、昔のことに、わしのご先祖さまは、お前さまのご先祖さまと競争をして負けたという話を聞いたことがあるかい」
「ほやほや。聞いたとも。何でもお前さまのご先祖さまが、途中で昼寝をしてて、そいで負けたという話やろ」
「そやそや。そやけど考えてみたら、昼寝さえせえなんだら勝っていたにちがいないんや。どや、いっぺん競争せえへんか」
亀は、わしの代(だい)で負けちゃ申し訳ないと、悩んだあげくにうまい方法を考えついたんやて。
「よっしゃ。ほんならやってみよか。審判(しんぱん)はフクロウおじさんに頼んで、山の上で、どっちが先に着くか見ていてもらおうやないか」
兎は、もちろん承知した。
次の朝、陽も高うなって、
「さあ、出発やで」
「ほな よ-い、ドン」
で兎はピョンピョン。亀はノソノソ。
「さあて、ご先祖さまの名誉(めいよ)を挽回(ばんかい)するのはこの時や。ぜったいに負けへんど。昼寝なんかするもんか」
と、兎は必死にピョンピョン。
けど、亀は平気な顔でノソノソ坂道を上がって行くんやて。
山の上の一本松の上では、フクロウが、どちらが先に着くかと、大きな目で見てたんよ。
そしたら、あれあれ、先に姿を見せたのは、なんと亀やったと。
兎はだいぶ遅れて、ハァハァいいながら坂を上って来たんやと。
フクロウが審判を下した。
「兎やんよう。残念やろけどお前さんの負けやどぉ」
「ええっ、あんなに速く駆けて来たのに、もう亀やんが着いとるん?」
兎は口惜しさのあまり「エ-ン、エ-ン」と泣き出したんやて。
「でも不思議やな…あんなにノロノロしている亀やんに負けるなんて。最初の一歩で差をつけたはずなんやけどなあ」
兎がポロポロ涙をこぼしていたら、急に空から雲が下りて来て、神さんが姿を現したんやて。そして厳しい声で、
「こりゃ、横着もんの亀よ、そこのもう一匹のほうも姿を見せよ」
と言われたんや。
するとどうや。あの亀にそっくりの亀がもう一匹いて、ノソノソと姿を見せた。
これには兎もびっくり。
「どうなってるんや…」
と考えこんでいる兎に、神さんは優しゅう声を掛けた。 「兎よ、泣くな。この亀はな、もう一匹のほうの亀に頼んで、この山の一本松の近くに隠れておくように言うて、さも自分が一生懸命に駆け上がって来たように見せたのじゃ。これ亀よ。そうであろうが」
すると亀は、すっかり恐れ入ってしまって、甲羅(こうら)の中へ首をひっこめてしもうたんやと。
神さんは、
「この横着もんめー」
ちゅうて、手に持っていた杖で、二匹の亀の背中をピシリピシリ打ちすえられたんや。
すると亀の甲羅にひびが入って、六角や八角の模様(もよう)になったんやと。
それから神さんはフクロウにお説教(せっきょう)や。
「これフクロウよ。お前のまぁるい目ぇはいったいぜんたい何の為についとるんか。そんな役立たずの目玉なら、もう昼間はいらんじゃろ」
ちゅうて、フクロウの目玉を夜しか見えんのと取り替えてしまわれたんやと。
それから神さんは、 「これからは物言をしっかり見て、正直に暮らせよ。わしはいつでも雲の上から見ているからな」
ちゅうて、雲に乗ってまた空高く戻っていかれてんやとい。
あ、そやそや。兎の目ぇな。あんまり泣きすぎたんで、目が真っ赤になってしもて、それからずっと目が赤いっちゅうこっちゃ。
きっとあの神さん、兎の目の赤いのを、直してやるのを忘れたんとちゃうか。
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「兎と亀とフクロウ」のみんなの声
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