民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 偶然に宝を授かる昔話
  3. 聞き違い 金は天子様

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

ききちがい かねはてんしさま
『聞き違い 金は天子様』

― 栃木県芳賀郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんが暮らしておったそうな。婆さんは耳が遠かったと。
 二人はよく働いてつつましく暮らしたのでだんだん金が貯(たま)ったと。
 爺さんは毎晩寝(ね)る前に銭勘定(ぜにかんじょう)するのを楽しみにしておったと。
 爺さんがいつものように銭勘定をしていると、婆さんが、
 「爺さんや、そんなに金を貯めてどうするつもりだ」
と聞いた。爺さんはその場しのぎに、
 「うんと貯めて、天子様(てんしさま)にあげるのじゃよ」
というた。 
 「そうかえ、天子様なら日本の国を治(おさ)めている方だから、そりゃよかろう」
 婆さんはにこにこして賛成したと。 

 
 ある日のこと、婆さんが一人で留守番(るすばん)をしていると、乞食(こじき)がやって来た。
 「何か食べる物をおくれな」
 婆さんは耳が遠いので聞き違(ちが)えて、
 「何、銭くれろって、銭は天子様にあげるのじゃから、お前なんかにはやれんよ」
というと、乞食は、
 「わしは天子様だ。今日はおしのびで銭をもらいに来た」
というた。
 婆さんは本気にして、ありったけの銭を乞食にやってしまったと。

 お昼時になって爺さんが帰って来た。婆さんは、
 「今日は天子様が来たから、残らず銭をあげた」
と、にこにこしていうたと。
 「天子様が来るはずはないんじゃがなあ」
 爺さんは、その時の様子をよくよく聞いたと。そしたら、何のことはない、乞食にだまされたと分かって、「あちゃあ」となげいたと。 

 
 一文無しになった爺さんは、どこか他所(よそ)の国へ行って働こうと旅に出ることにしたと。

 爺さんが荷物を背負(せお)い、婆さんには大戸(おおど)を一枚背負わせて、いくがいくがいくと、日が暮れたと。
 ふたりは鎮守(ちんじゅ)の森へ行って、境内(けいだい)の杉の木の下で休んでいると、誰(だ)れやらがドガドガとやってくる音がした。急いで杉の木に登って隠れたと。
 やって来たのは強盗(ごうとう)たちで、その木の下で車座(くるまざ)になって、盗んで来た銭勘定をはじめたと。
 木の上では婆さんが、
 「爺さんや、背中の大戸が重うてならん」
とぶつぶついうたら、爺さんは、
 「しいっ、強盗どもに見つかったら大事(おおごと)だから黙っていろ」
というた。そしたら、婆さんは、大戸を下ろせと、聞きちがえて、
 「おお、よかった」
 いうて、大戸を落としたと。


 大戸は、ドン、バサンと大きな音をたてて強盗の頭の上に落ちたと。 
 さあ、驚(おどろ)いたのは強盗たちだ。
 「それ、天狗様(てんぐさま)が来たぁ」
 いうて、一斉(いっせい)に逃げて行ってしまったと。
 あとには銭がいっぱい置いてあった。

 爺さんと婆さんは、みんな拾(ひろ)い集(あつ)めて、大金持ちになったと。
 ふたりは村に帰って、一生安楽に暮らしたと。

 おしまい。

「聞き違い 金は天子様」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

乞食に騙されてしまったけど、最後、大金持ちになれて、良かったねと思った!!( 10歳未満 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

歌の三郎と笛の三郎(うたのさぶろうとふえのさぶろう)

むかし、むかし、あるところに歌の三郎と笛の三郎という若者が隣合って住んでいた。歌の三郎は歌が上手で、笛の三郎は横笛が上手だった。二人は、もっと広い世界で芸を試してみたくなった。歌試し、笛試しの旅へ連れだって出かけたと。

この昔話を聴く

爺様と婆様の話(じさまとばさまのはなし)

昔、あったず。ある所ね、爺様と婆様あったず。その家の裏に大き木ぃあったず。あるとき、又八ず人ぁ来て、「家の裏にある、けやき売れ」たへで、婆様、「良え」て、売るごどねしたず。

この昔話を聴く

山伏と軽業師と医者(やまぶしとかるわざしといしゃ)

むかし。山伏と軽業師と医者が同じ日に死んだ。三人そろって極楽の方へ歩いて行くと、おっそろしい顔をした閻魔(えんま)様が、大岩の上に座っていて、「勝手…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!