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きつねとくま
『キツネとクマ』

― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにキツネとクマがおったそうな。二匹(にひき)は山で出合ったと。
 「クマどん、ふたりで畑をつくろうや」
 「うん、そりゃよかろう」
ということになって、キツネは、
 「じゃあ、種(たね)はおらが心配(しんぱい)するから、クマどんは畑の土を掘(ほ)っといてくれや」
 そういって、忙(いそが)しそうに坂道(さかみち)を駆(か)け下りて行った。

 クマは、土のよさそうなところを探(さが)して畑をつくっておった。畑が出来た頃合(ころあ)いにキツネが種を持って戻って来た。

 
 「クマどん、この種を植える前に、なった物の分け方を決めておこうや」
 「ああ、よかろう」
 「おらが土から下の汚れた方。クマどんは上のきれいな方ってことでどうだ」
 「よかろう、よかろう」
ということになって、種をまいたと。

 やがて芽(め)が出て、葉(は)も出て、りっぱな野菜が出来た。出来たところが、それは大根だったと。
 約束だから仕方ない。クマは葉の方をとり、キツネは根の方をとったと。

 
 次の年、またキツネとクマは出合ったと。
 「クマどん、去年は気の毒(どく)した。どうじゃろ、も一度畑をつくってみんかい。今度はクマどんに土から下を取ってもらい、おらは上の方で辛棒(しんぼう)しようと思うとるが」
 「よかろう、よかろう」
ということになって、今度もクマが畑をたがやし、種はキツネが持って来た。

 
 やがて芽が出て、葉も出て、実がなった。なったところが、それはイチゴだったと。
 キツネは土から上はおらのもんだ、といってその身を残(のこ)らず自分の穴へ運(はこ)んだと。
 クマは、その根っこをほってみたら、ヒモのようなものがあるばかりで食べることが出来ん。すっかり腹(はら)を立てて、もうキツネとは畑をつくらないことにした。


 ある時、二匹はまた出合ったと。
 「クマどん、ヤブの中に蜜蜂(みつばち)の巣があるが、とりに行かんか」
 クマは、蜜蜂と聞いてはほおっておけん。のどをゴクリと鳴(な)らしてキツネに連(つ)いて行った。

 ところが、巣をとりに来たというので何千匹(なんぜんびき)もの蜜蜂が、ワーンとクマに集まった。
 クマがそれを払いのけようと、首を振ったり、手を振ったりしている間に、キツネは蜜(みつ)のいっぱいつまった蜜蜂の巣をかかえて逃(に)げて行ってしまった。

 
 「もう勘弁(かんべん)ならん。今に見ていろ」
と顔を真っ赤……にしたかどうかしらんが、とにかく怒(おこ)った。

 
 それからしばらくたったあるとき、キツネが腹を空かせて食い物を探していたらクマに出合った。
 「やあクマどん、この間はあとからクマどんも逃げて来ると思って半分とって置いたけど、何ぼ待っても来んので、なめちゃった。どうして来んかったや」
 「何をいう。お前には何度もだまされた」
 「本当だや。ところで、何か食う物はありませんか。おら腹がへって、腹がへって」
 「河原(かわら)へ行くと馬がいる。馬は後足(あとあし)が弱いから、そこを喰らいつくとすぐにまいる。そしたら馬の肉がいくらでも食える」
 キツネはいいことを聞いたと、早速(さっそく)河原へ行くと、なるほど馬が草をはんでいる。

 
 「へん、クマのやつ、お人好しもいいところだ」
といいながら、そろりそろり忍(しの)び寄(よ)って、いきなり馬の後足にかみついた。そのとたん、キツネは激(はげ)しい力でボガンと蹴飛(けと)ばされた。
 キツネは大ケガをしたそうな。
 
 むかし こっぽり。

「キツネとクマ」のみんなの声

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やり返せてキツネの心にその出来事が残ってよかった( 10代 / 女性 )

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やられ続けたクマは狐に死ぬほどの怪我をさせていい気味だ( 10代 / 男性 )

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