終わった ( 10歳未満 / 男性 )
― 島根県隠岐島 ―
語り 井上 瑤
再話 加藤 明孝
とんと昔があったげな。
じいさんとばあさんがおったげな。
ある日のこと、じいさんが言うことにゃ、
「ばば、今日は天気もいいで、ちょっくら山奥まで薪(まき)を取りに行くから、にぎりめしを焼いて焼きめしこしゃえてくれ」
そしたら、ばあさんは焼きめしをひとつ作ってくれたと。
でも、それだけで他になんにもありゃあせんから、
「あーあ、焼きめしひとつじゃつまらんのう」
と言うたら、ばあさんは、もうひとつちっこくにぎって、味噌(みそ)をごったりつけてくれたと。
じいさんは、それを腰(こし)に下げて出掛(か)けたと。
ずーっと山奥へ入って、薪もたぁーんと取ったと。
一服して、ひょいと見ると、岩肌(いわはだ)からいい水がチョロチョロ出てたと。
「こりゃ、うまいとこに来たわ。ちょうどええ、めしを食うかのう」
じいさんは腰に下げた包(つつみ)をといて、焼きめしを食ったと。
そしたら、味噌がごったりつけてあったものだから、のどがやけてたまらない。それで、岩肌から出ている水を、ガブガブ飲んでは焼きめしを食い、食っては飲みしていたと。そしたら、
「こ、こ、こりゃあ。こりゃあ何としたことじゃ」
いつの間にか、じいさんのうすい白髪頭(しらがあたま)がふさふさした黒い髪(かみ)の毛に変わって、十七、八の若者になっていたと。
「こりゃあ不思議(ふしぎ)じゃあ。この水飲んだら若くなった。ばあさん、さぞおどろくやろ」
顔かたちが若くなったじいさんは、うれしくなって、家にとんで帰ったげな。
「ばば、わしだ。いま帰ったぞ」
「人をばかにするな。お前みたいな若い男なんか知らん」
「話しも聞かずに、ぐだぐだ言うなや。これ、ばばがこしらえた着物だ」
じいさんが、こがあして、こがあして、こがあなったとわけを話したら、ばあさんは、
「われも行く。われも若くなってくるわい」
と山をせかせか登っていったと。
教わった所には、岩肌から水がチョロチョロ流れていたと。
「おお、これじゃ、これじゃ」
ばあさんが、両手で水をガブガブ、ガブガブ飲んだら、どんどん、どんどん若くなったと。「もっと、もっとじゃあ」と、まだまだ水を飲むんだと。
若者になったじいさんは、日が暮れてもばあさんが帰って来ねえけ、山奥へむかえに行ったげな。水の出る所へ近づきながら、
「ばばー、ばばどこじゃあ」
と、呼んで耳をすましていたら、
「ホギャー、ホギャー、ホギャー」
と、赤ん坊の泣き声が聞こえて来た。
「はて、こんなところで赤ん坊の声とは。ま、まさか、ばばが……」
若者になったじいさんが、あわてて水のところへ駆(か)け寄ると、水のそはでは、ばあさんの着物の中で赤ん坊が泣いていたんだと。
「あゃー。ばばがこんな赤ん坊になってまったわ。」
若くなったじいさんは、赤ん坊になったばあさんをふところに入れて、ねんねこして家に帰ったんだと。
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