― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに茅部野(かやべの)というところがあってな、そこは狐(きつね)がよう出るところで、度々人がだまされて、道を迷(まよ)うて難儀(なんぎ)をするところだった。
あるとき、山伏(やまぶし)が茅部野のあたりで行きくたびれておったら、やぶの中に、大きな狐(きつね)が三匹昼寝(ひるね)をしとった。
「こいつはええものを見つけたぞ。今日はひとつ、こいつでおどろかしてやろう」
山伏が法螺貝(ほらがい)を狐の耳に近づけて、ボーッと吹いたから、さあ、狐はびっくり。散(ち)り散りになって逃(に)げていった。
山伏は、おかしくって、おかしくって、腹(はら)をかかえて大笑いしながら歩いていると、いい天気なのに、ぱたっと日が暮(く)れてしもた。
「こねぇに急に暮れると、泊まるところもねぇが、はて、どがいしたものだろう」
困(こま)った、困ったと言いながら、それでも歩いていると、木立(こだち)の間にこんまい火が、ぽっぽ、ぽっぽと灯(とも)って見える。近づいてみると、それはお大師堂(だいしどう)のあかりだった。
「今晩(こんばん)は、ここへ泊まろうか」
とお大師堂の中へ入って、仏様(ほとけさま)の下の空になっているところへ潜(もぐ)り込んで寝(ね)ておった。
ところが、だいぶん夜も更(ふ)けたころ、ピカピカ稲光(いなびか)りがして、雷が鳴(な)り出した。そのうち大粒(おおつぶ)の雨まで降(ふ)ってきた。
こりゃあ、まあ、えらいことになったと思ったけど、そのまま寝ておったら、雨の音にまじって、キン、コン、ジャガラン。キン、コン、ジャガランという音がしてきた。
こりゃ、大雨の降る最中に葬式(そうしき)とは・・・。 棺(ひつぎ)をこのお堂に持ち込むというようなことを言わにゃあええが、思うておったら、すぐそこに足音がして、話し声が聞こえて来た。
「とりあえず棺をここのお堂の中に置いて雨が止んでから葬式をしよう」
「それが一番ええ」
外のみんなは、お堂の中へ棺桶(かんおけ)を置いて、ローソクを一本とぼして帰って行った。
「いや、気味が悪いな。こりゃ出た方がよさそうだ」
山伏が仏様の下から出ようとしたら、棺桶のふたが、ごそごそ、ごそごそ揺(ゆ)れだした。 そして、ふたがギイーッと持ち上がって、中から、青ぉい坊主(ぼうず)がにゅうっとのぞいた。
さあ、山伏はおそろしくて、おそろしくて、柱を登って、屋根裏(やねうら)のハリをおがおが這(は)って逃げたら、
「山伏臭い、山伏臭い」
というて、手が届くか届かんぐらいなところまで追っかけてくる。
今度は屋根の外側(そとがわ)に回って這(は)っていったら、やっぱりついてくる。下へ飛びおりても追ってきてうろりうろりするものだから、向こうの大きな杉の木に必死でよじのぼった。
それでもまだ、
「山伏臭い、山伏臭い」
いうてあがってくる。
山伏は、こりゃかなわん、これよりは神様にすがるより他はねぇ思うて、法螺貝(ほらがい)をボーボー吹き鳴(な)らし、
「のうまくさ、まんだあばあ、そうだあせんざんまかろうじゃあ、ないさあかいうんらかんまあ」
と、枝にまたがって、錫杖(しゃくじょう)を振(ふ)り振り、一心に祈(いの)った。思わず手を離(はな)したものだから、そのひょうしに木からおっこちてしまった。
「痛ててててーぇ」
と、とび起きてみたら、お堂も棺桶(かんおけ)もなくなって茅部野(かやべの)のまん中で、空もええ天気だったと。
狐(きつね)をだまして喜(よろこ)んでおったら、あべこべにだまされておったんじゃと。
むかしこっぷり どじょうの目
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とんと昔、あるところに何代も続いた大きな家があった。 土佐では、古い家ほど火を大切にして、囲炉裏(いろり)には太い薪(たきぎ)をいれて火種が残るようにしよったから、家によっては何十年も火が続いておる家もあったそうな。
「山伏と狐」のみんなの声
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