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しょうべんうらない
『小便占い』

― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 なんと昔があったそうな。
 あるところに爺さんと婆さんがおって、その日の米にも困るほどの貧乏暮らしじゃったそうな。正月がきたというのに餅(もち)一臼(ひとうす)もよう搗(つ)けず、魚の一切れもよう買わなんだ。
 「婆さんや、今日は正月じゃというのに、雑煮を祝うことが出来ん。よそではうまい雑煮を祝うとるじゃろが、こらえてくれぇのう。それでも、ぬくぬくと寝とれるだけええ。うちは、今年は寝正月じゃ、ええ寝正月としょうぞい」
 そう言うて、爺さんと婆さんはこたつの中で寝とったそうな。
 しばらくして婆さんが小便しに立った。
 狭い家じゃから、爺さんの寝とる枕元まで小便の音が聞こえてくる。

 
 「チャウリ チャウリ チャウリ チャウリ」
と鳴って、最後に、
 「ビッチュ-」
と屁をこいたそうな。
 爺さん、それ聞いとって、はたと手を打った。
 「こりゃあ、ええ年になるぞ。正月さまの知らせじゃ。備中へ茶売りに行けば儲かるぞ」
 爺さんは金を借りるだけ借りて茶を仕入れ、備中へ売りに行った。
 すると売れるは売れるは、茶が飛ぶように売れて、たいそう儲かったそうな。

 ところが隣りの婆さんがこの話を聞いて、
 「爺さん、爺さん、耳よりな話を聞いて来たで。隣りの爺さんな、婆さんの正月の小便の音で占(うらの)うて、そいで茶売りに行ってぼっこう儲けたそうな」
 「そんなら、今度の正月にはうちでも占うてみるか」
 次の正月に隣りの爺さんは婆さんをせかせて小便しに行かせた。


 「そんなら行きますで、しっかり聞いとくんじゃぞい」
 「わかった、わかった、しっかり聞いとくで、早よせい」
 やがて、
 「チュ- チュ- チュ- チュ-」
と音がした。
 爺さんが、何を売りに行けっちゅうとるのやろと思案していると、婆さんな、力を入れすぎて「ブ―」とやった。
 隣りの欲張り爺さんな、その年、中風になって寝こんでしまったそうな。
 だから、日頃から便所はきれいにするもんぞ。
 昔から便所には食べ物を司どる便所神様がおるっちゅうからな。
 便所に、ご飯をお供(そな)えする家もたくさんあるくらいじゃ。

 むかしこっぽり杵(きね)のおれ

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