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おしょうとこぞう
『和尚と小僧』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 後藤 貞夫
整理 六渡 邦昭

 昔、あるお寺に和尚さんと小僧さんがおったと。
 和尚さんは毎晩餅(もち)を囲炉裏(いろり)で焼いて食べるけんど、小僧さんにゃ、ちっともやらんので、小僧さんは、どうにかして餅を食べる工夫はないもんかと思案しちょったそうな。
 ある晩、和尚さんが、
 「小僧、小僧。今夜はちょっと町に使いに行ってくりい」
というた。小僧さん、
 「はい」
と答えはしたが、おれの出た間にまた、餅を食べるんじゃろうと思うち、はじめガタガタガタと走って門までいっちょいて、それから、そうっと帰っち来ち、障子(しょうじ)の穴から見ちょったら、案の定(あんのじょう)、和尚さん、餅を囲炉裏の灰の中に入れよった。

 
和尚と小僧挿絵:福本隆男

 それを見ちょって、あそこに一つ、ここに一つ、そこに一つと覚えちょいて、また門までそうっと出て、それからガタガタガタガタと走って帰ったと。すると和尚さん、
 「おお、もう戻ったんか。えろう早(はえ)えじゃねえか」
と、おどろいた顔した。

 
小僧さん、
 「はい、今夜は思いがけず、どこでんここでん大変な目に出合うち、とうとう行き着かんじ、戻っち来ました」
と、わざと息をはずませち、いうた。
 「大変な目ち、何だ。何に会うた」
 「はい、ちょっと、そん火箸(ひばし)を貸しち下さんしぃ」
と言うて、囲炉裏の灰に地図を画いた。
 
和尚と小僧挿絵:福本隆男

 
 「ここが寺で、これが門、その前の道はこうなります。私が寺の門を出ち、こう行きよったりゃ、こん角(かど)じ犬が喧嘩(けんか)をしよっち、恐(おそ)ろしくてたまらんじ、こっちの背戸(せど)にポンと飛び込んだりゃ…おっと」
と言うて、火箸を突き立てて餅を掘り出したんで、和尚さん、仕方のうて、
 「まあ、食え」
とと言うた。小僧さん、
 「それじゃ、御馳走(おごちそう)になります」
と言うて、食べたと。

 
 「それから、こう行きしょったりゃ、ここん所じ、牛が喧嘩をしよったもんじゃけん、また、こっちの背戸にポンと飛び込んだりゃ…おりょっ」
と言うて、また餅を掘り出して、
 「和尚さま、これ」
 「ん、まあ、ええ。食え、食え」
 それももろうて食べて、
 「それから、またここん所じ、馬が喧嘩をしよって、ヒヒンヒヒンと後脚(あとあし)で蹴(け)り合いよるけん、またこっちの背戸にポンと飛び込んだりゃ…おっと」
と、また掘り出して、なんぼでも餅を食べたそうな。

 
和尚と小僧挿絵:福本隆男

 和尚さん、くやしさ半分、食いたさ半分の顔しちょる。それを見抜いた小僧さん、
 「私ばっかり食べるのもなんですから、次にポンと飛び込んだりゃ、和尚さま召し上がって下さい」
と言うたら、和尚さん、
 「そうか、ん、すまんな」
 こう言うて、嬉(うれ)しそうな顔したと。
 なんのむかしもけっちりこ。

「和尚と小僧」のみんなの声

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楽しい

クスッと笑えるこのお話。子供も楽しそうに聞いています。寝る前にオススメです。平和なので( 30代 / 女性 )

楽しい

低学年の子供が、寝る前に聞くのをとても楽しみにしています。 ポテポテという音に、にこりと笑っており、その顔見たさに毎晩聞かせたくなります。 怖い話も大好きなようです。( 30代 / 女性 )

楽しい

楽しいお話でした( 30代 / 男性 )

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