― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある年の大晦日(おおみそか)のこと。
吉四六(きっちょむ)さんの村では、借金(しゃっきん)取りが掛売(かけう)りの貸金を集金しに、家々をまわっておった。
家の中からそれを見ていた吉四六さんの女房(にょうぼう)、
「貸すほどお金があるっちゅうのも大変だねえ」
「おうよ、こんな寒い晩(ばん)に貸し取りとは、難儀(なんぎ)なことじゃあ。こうして家にじっとしていられるのも貸しが無いからじゃ。みんなおれのおかげだぞ」
貧乏所帯(びんぼうじょたい)の吉四六さん、妙(みょう)な自慢(じまん)をする。
「そろそろ、家にも来る頃(ころ)じゃ。借金取りが来たら『吉四六が急の病(やまい)で死んだから払えない』ち言うてやれ」
女房にこう言うと、かねがね用意しておいた棺桶(かんおけ)を家の中に運び、線香(せんこう)をたいて、自分は天井裏(てんじょううら)に隠(かく)れたと。
挿絵:こじま ゆみこ
やがて、あっちこっちの借金取りがぞろぞろやって来た。
「ご免よ、吉四六さんおるなあ。こんだけたまっちょるが…」
「わしんところは、こんだけ…」
「うちは、こんだけ…」
と帳面(ちょうめん)を出して金額(きんがく)を言いはじめたと。
「はあ、せっかく来てくれたがのう、実は吉四六が急の病で死んでしもうた。あそこの棺桶に入れてあるが、貧乏なために葬式(そうしき)も出せん始末(しまつ)で思案(しあん)にくれているところだ。そういうわけだから、気の毒だが、とても借金を払うことは出来ん」
借金取りたちは、顔を見合わせて口をあんぐりしとったが、女房が涙(なみだ)を流すので、まんざら嘘(うそ)とも思えん。
「それは、また、気の毒なことだ。これはちいっとばかりだが、仏様(ほとけさま)に線香でもあげちくりょ」
借金取りたちが、てんでにお香典(こうでん)を包んで置こうとすると、女房はあわてて断(ことわ)った。
「皆さんに借金が返せんで申しわけないのに、この上お香典までは、とてももらうことは出来ん」
すると、先程から天井裏で様子を見ていた吉四六さん、しきりに目で「もろうとけ」と合図(あいず)を送っておったが、女房はちいっとも気がついてくれん。
つい身を乗り出しすぎて、ドッシーンと落っこちてしまった。借金取りたちはびっくり。
しもた!と思うたが、そこは吉四六さん、
「えー、吉四六、極楽(ごくらく)から、ただいま戻(もど)りました」
けろっとしてこう言うたので、借金取りたちは二度びっくり。
挿絵:こじま ゆみこ
「ウヒャー、バ、バ、化けて出たあ」
ちゅうて、皆逃げ出してしまったと。
吉四六さん、その香典で、いい正月を迎(むか)えたそうな。
もしもし米ん団子 早う食わな冷ゆるど。
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昔、あるところに若い夫婦者(ふうふもの)が古猫とくらしておったそうな。 あるとき、 夫が山仕事に出掛けたあとで、炉端(ろばた)で居眠(いねむ)りしとった猫(ねこ)がムックリ起きて、大きな目でギロリとあたりを見廻(みまわ)してから、嫁(よめ)さんの側(そば)に寄って来たと。
「吉四六さんと借金取りの香典」のみんなの声
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