吉四六さんのお話の中で一番好きです。殿様のまえでよくあんなとんちが思いつくなとびっくりしました。( 10歳未満 / 男性 )
― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県(おおいたけん)※大野郡野津市(おおのぐんのづいち)に、吉四六(きっちょむ)さんという面白(おもしろ)い男がおった。
頓智働(とんちばたら)きでは、誰一人かなう者がないほどだったと。
ある日、吉四六さんが浜辺を通りかかると、大勢の人達が集まって騒(さわ)いでおったと。
「わしゃぁ長いこと漁師(りょうし)をやっちょるが、こげな魚は見たこともねえ」
「そうじゃのう。昔にもこげな魚があがったち話は聞いたこともねえなあ」
何でも、見慣れない魚が網にかかったそうな。
「こりゃ面白そうだ。ちと、からこうちゃろ」
持ち前のいたずら心をおこした吉四六さん、漁師達をかき分けた。
※大野郡野津町野津市:現在は、臼杵市野津町大字野津市
「珍しい魚ちゅんで覗(のぞ)いて見たら、何の事はねぇ。こりゃぁ、ババラブーじゃねぇか。おめえたち漁師じゃろうが、こん魚の名も知らんたぁ、あきれたもんじゃ」
漁師達は目をまんまるにして名前を訊(き)いた。
「わしゃ、吉四六じゃ」
吉四六さん、胸の内で舌をペロッと出してその場を離れたと。
さて、それから一ヶ月も経(た)った頃、吉四六さんは突然殿様(とのさま)から呼び出しを受けた。
「はて、何じゃろ」
恐る恐る出向くと、殿様は、すっかり干(ひ)からびて干物(ひもの)になった例の魚を家来に持って来させた。
「これ、吉四六。その方(ほう)この魚の名前を知っておるとのことじゃが、一体何と申す魚か」
さぁ困った。何せ一ヶ月も前のこととて、あの場で何と言ったかまるっきり覚えていない。
「は、は、はあっ、申し上げます。ええ、その魚は、オッキャラキャーと申しまする」
吉四六さん、事もあろうに、殿様の前でまたまた口から出まかせを言った。
「この痴(し)れ者め!その方、さきごろ、この魚をババラブーと申したと言うではないか。余(よ)を愚弄(ぐろう)するとは何事ぞ。その分には捨ておかぬ、そこへなおれ」
殿様、刀をとってにらみつけた。が、そこは頓智の吉四六さん。少しもあわてず、
「これはしたり。おそれながら申し上げます。生のイカも干せばスルメと申します。生のババラブーが干物になってオッキャラキャーと申しましても、何の不思議がありましょうか」と言って胸をぐいっと張ったそうな。
さすがの殿様も、これには「ぐっ」とつまって、二の句がつげなかったと。
もしもし米ん団子、早う食わな冷ゆるど。
吉四六さんのお話の中で一番好きです。殿様のまえでよくあんなとんちが思いつくなとびっくりしました。( 10歳未満 / 男性 )
「ババラブーとオッキャラキャー」のみんなの声
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