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おおかみのおんがえし
『狼の恩返し』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、ある山の中にポツンと一軒屋があっておっ母さんと息子とが畑を耕して暮らしておったそうな。
 ひどい貧乏だったので、おっ母さんも息子も働きづくめだったと。
 ある日の真夜中のこと、おっ母さんが急の病(やまい)にかかって、身体をエビのように曲げて苦しがったと。医者は山の向こうの里にしかおらん。ところが、山にはたくさんの狼がおって、夜になるとウォ-ン、ウォ-ン吠えて恐ろしいのだと。夜道では、今まで誰も通りきった者はなかったと。
 息子は、おっ母さんの病気を治したい一心で出掛けたそうな。左手に提灯を持って、右手で縄の先に火を点(とぼ)したのをぐるぐるまわしながら、山道を登って行ったと。 

 
 いくがいくがいくと、山の尾根のところで、一匹の大っきな狼が真っ赤な目を光らせてこっちを見ていた。息子は、
 「お、お、狼どん、今だけは俺(お)らを喰(く)うのを勘弁(かんべん)してくれ。おっ母さんが病気で苦しんどる。医者様連れて来ねばなんねぇだ。たのむ。見逃がしてくれろ」
といって、火縄をぐるんぐるん振りまわしたけど、狼は寄って来るんだと。
 「医者様連れて来たら、きっと喰われに来るからぁ」
と泣いてたのんでも寄ってくる。
 息子は、その場へへたり込んで、目をきつくつぶった。
 狼の吐く息が顔にかかった。
 「今噛まれる、今噛まれる」
 今か今かとふるえていたが、狼は噛みついてこない。


 息子は、怖わ怖わ目を開けて見た。そしたら、目の前に狼がいる。「ヒエ-ッ」と思わず目をつぶった。が、何事もない。また、そおっと目を開けて見たら、どうも狼の様子がおかしい。舌をベロンと出して、口を大きく開けたまま、何度も頭を下げたり上げたりしている。どうも何事かを訴えたがっている様子だ。
 息子は、怖わ怖わ狼の口(くち)の中をのぞいて見た。
 「おや、のどに骨が刺さっとる」
 息子は、狼ののどに手を入れて、骨を抜いてやったそうな。
 狼は涙を流して頭を下げ下げ、後(うしろ)を見い見い姿を消したと。

 息子が無事に医者の家を訪(たず)ねたら、医者は、狼が恐ろしいで行かれん、という。
 薬だけもらって、急いで山道を引き返したら、何と、今度は四、五十匹もの狼が寄って来て、息子のまわりをとり巻いた。じわっ、じわっと環(わ)を縮めて、さあ跳びかろうとしたそのとき、突然大っきな狼が環の中に跳んで入り、一声ウォ-ンと吠えた。


 すると、息子をとり巻いていた狼共は、一斉(いっせい)に藪(やぶ)の中に姿を消したと。
 大っきな狼は、さっき骨を抜いてやった狼で、これが大将だったそうな。
 息子は狼の大将に送られて家に戻ったと。
 次に朝から、毎日、家の前に猪だの兎だの雉子(きじ)だのが置いてあるようになった。
 息子は、食べきれない分を干物(ひもの)にして、ふもとの里に売りに行ったので、少しずつ暮らしが楽になって来たと。
 おっ母さんの病気もすっかり快(よ)くなって、二人して、おだやかに暮したそうな。

 もしもし米ん団子、早よう食わな冷ゆるど。
 
 

「狼の恩返し」のみんなの声

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感動

オオカミが昔日本にいた証拠らしきものになりますね。九重の犬の話を思い出して感慨深いです。実話に近い気がします。( 70代 / 男性 )

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