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おしょうのあいさつ
『和尚の挨拶』

― 島根県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 とんと昔があったげな。
 昔、あるところにお寺があって、和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんと寺男(てらおとこ)がおった。
 あるとき、檀家(だんか)のご大家(たいけ)で法要(ほうよう)があったと。
 和尚さんは衣やら経典(きょうてん)やらを入れた笈(おい)を寺男に背負(しょ)わせ、小僧さんを連れて行った。

 
和尚の挨拶挿絵:福本隆男

 行く道の途中(とちゅう)で、向こうから、宗派(しゅうは)の異(ちが)うお寺の和尚さんが、きれいな花をかかえてやってくるのに出逢(でお)うた。


 こっちの和尚さんが合掌(がっしょう)しながら、
 「しいい」
というて、おじぎをしたら、向こうの和尚さんも足を止めて
 「しいい」
というて、合掌しながらおじぎを仕返したと。
 次に、小僧さんも、
 「しいい」
というて通ったので、そのうしろにいた寺男も
 「しいい」
というて通ったと。


 向こうの和尚さんが、ずっと遠くに離(はな)れたころあいに、寺男が小僧さんに聞いたと。
 「小僧さん、ちょこっと教えて欲しいことがあるんじゃが、歩きながら教えてくれんですか」
 「はい、なんでしょう」
 「さっきのあいさつですがの、和尚さんも小僧さんも『しいい』いうてました。向こうの和尚さんも『しいい』いうてました。いったい、『しいい』って何のことですかいな」
 「ああ、あれですか。
 こっちの和尚さんは、おおかた、あの花が欲しい思うて『しいい』っていいなさったんだろうと思う」


 「はあ、『欲しい』の しい ですか。ほんなら向こうの和尚さんの『しいい』は何ですかのう」
 「向こうの和尚さんは、おおかた、花をあげるのは惜しいと思うて、『しいい』っていいなさったんだろうと思う」
 「はあ、『惜しい』の しい ですか。ほんなら、小僧さんの『しいい』は何ですかのう」
 「おいらのは、こっちの和尚さんも、向こうの和尚さんも、ひとに会えば頭を下げられる立場の人なのに、二人して『その花欲しい』だの『やるのは惜しい』だのいいあっている。子供みたいで、可笑(おか)しい思うて『しいい』っていうたんだ」

 
和尚の挨拶挿絵:福本隆男

 「はあ『可笑(おか)しい』の しい ですか。なぁるほどねぇ」
 「そういうお前は、何で『しいい』というたか」
 「わしゃあ、なあんにも知りませんで『恥ずかしい』っていいました」
 それこっぽし。
 

「和尚の挨拶」のみんなの声

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楽しい

挨拶の、しかたが、とても、おもしろくて、すごいあいさつでした。また、みたいです。!( 10歳未満 / 女性 )

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