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えんきりじょう
『縁切状』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あったてんがな。
 あるところに、父(とと)と嬶(かか)が暮らしてあった。
 あるとき、父と嬶が諍(いさか)いして、父が嬶に、
 「うるさい。お前のようなもん、出て行け」
と言うた。
 「あら、よう言うた。お前(まい)さん、おら出て行ってもいいんだね」
 「ああ、出て行け」
 「本当に、いいんだね」
 「とっとと出て行け」
 「あっ、そう。なら出て行く。けど、里へ行くったって空手(からて)じゃあ行けんわぁ。ここの家を追ん出されたという縁切証文(えんきりしょうもん)、書いとくれ」
 父、字を一丁字(いっちょうじ)も書けんかったと。


 「おう、そんなもん、いくらでも書いてやらぁ」
 「あら、お前さん、書いてやると言っても、字ィ識(し)らんじゃないの」
 「字なんか識らんでも、そんなもん、わけない」
 父、そう言うて、まあるい輪を四つ、紙に書いて嬶に渡した。
 
縁切状挿絵:福本隆男

 
 「これ、何と読むん」
 「今まで“わ“、夫婦だ“わ“、これから“わ“、他人だ“わ“」
 嬶、それを持って里へ帰って行ったと。
 父、せいせいして、その日は畑の石拾いのはかがいったと。
 が、次の日になると、父、畑で、石をひとつ拾うては道の方を見、ひとつ拾うては溜息(ためいき)をついている。
 
縁切状挿絵:福本隆男


 次の朝早くに、父、嬶の里へ嬶を迎えに行ったとや。
 「かか、うちへ来いや」
 「おら、やんだ。縁切証文もろうたし、うちへ戻らん」
 「縁切証文?何て書いてある?」
 「ほれ、今まで“わ“、夫婦だ“わ“、これから“わ“、他人だ“わ“、って書いてある」
 「どれ、見せてみい。ありゃ、かか、間違(まちご)うとるぞ。これは、今まで“わ“、夫婦だ“わ“、これから“わ“、やっぱり夫婦だ“わ“、と読むんだ」
 「ほんとうに、そう?」
 「おう、そうだや」
 嬶、父といっしょに、また、家へ戻って来たと。
 
 いきがポーンとさけた。
 

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