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びんぼうがみ
『貧乏神』

― 新潟県佐渡 ―
語り 井上 瑤
再話 藤田 勝治
整理・加筆 六渡 邦昭

 むかしがひとつあったとさ。
 あるところに、貧乏(びんぼう)じゃったが、それは仲のよい爺(じ)さまと婆(ば)さまが暮(く)らしておった。
 年越(としこし)の日がきても何一つ食べるものがない。
 婆さまは大事にしまっておいた着物を爺さまにわたし、町さ行ってゼニにかえてくるように頼(たの)んだと。 
 それで、爺さまは町さ行ったがいっこうに売れん。
 困っていると、やはり売れない炭売りと出合った。


 「そんなら二人で、着物と炭をとりかえよう」
ということになって、爺さまはとりかえた炭を背負(せお)うて、トボトボ帰って来た。

 婆さまは炭を背負うている爺さまを見てたまげたが、訳(わけ)聞いて、
 「そんなら、これ全部くべて、ぬくぬく、お正月を迎(むか)えましょう」
と、言うて、一俵(いっぴょう)の炭をみんなあけて、火をガンガンとぼしはじめた。
 そうしたら、どこからだか、ボロボロの着物を着た小さい男たちが、
 「火、あたらしてくれ」
と、イロリのまわりに集まってきたそうな。

 爺さまが、
 「お前たちはだれだ」
と、言うと、男たちはニカニカ笑いながら、
 「わしたちは貧乏神(びんぼうがみ)だ。おめえの家が一番いごこちがいいで、長いことここにいるんだ」
と言う。


 爺さまは心ん中で<ありゃあ、おらん家(ち)にはこんなのがおったのか。こりゃどうにかして立ち退(の)いてもらわにゃらならんぞ>と思ったが顔には出さず、
 「おらの家、好いてくれるのはいいが、お前(め)たちは何が一番嫌(き)れえだかや」
と、話を向けた。
 すると貧乏神たちは、
 「わしたち、朝早く起きて、ボリボリ味噌(みそ)すったり、ガシャガシャそうじする音が一番嫌れえだ。爺さと婆さは、何が一番嫌れえだかや」
と、きいてきた。
 「そうさな、おらたち、米とゼニには苦労させられっぱなしだ。だから、米とゼニが一番嫌れえだ」
 「イーヒッヒッヒ、爺さたちとは気が合うな。わしたちの棲(す)みよいはずじゃ。イーヒッヒッヒ」
 その晩(ばん)、イロリのまわりで皆(みんな)して寝(ね)たと。


 さて次の朝、早くから、爺さまは空のスリバチでボロボリ味噌するまねをし、婆さまは土間(どま)をガシガシそうじしてまわったと。
 そしたら貧乏神たちは慌てて起きだし、
 「わしたちの嫌(いや)なことをするなら、お前たちの一番嫌なことをしてやる」
と、怒(おこ)って、米やらゼニやら家いっぱいに、「ドッスン、ドッスン。ジャンラ、ジャラジャラ」とほおり込(こ)んだと。
 それで、爺さまと婆さまはよいお正月を迎えたそうな。
 
 いっちゃ はんじゃ さけた。

「貧乏神」のみんなの声

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