― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
あったてんがの。
むかし、あるところに、ひとりの爺(じ)さが居てあったと。
爺さは、毎日山へ木をきりに行っていたと。
ある日、爺さが山へ行ったら、ケン、ケーン、クーン、と苦しそうなキツネの鳴(な)き声が聴(き)こえてきた。
捨(す)て置けない気持ちになった爺さ、向こうの声のする草ヤブの中を行ってみたら、一匹のキツネが、丸まってせつながっておった。
「おうおう、何ぞ妙(みょう)な物でも食うてあたったか、どこかケガでもしたか」
と言いながら近寄(ちかよ)ると、キツネは爺さを、救(たす)けて下さい、ちゅうような眼(まなこ)で見あげた。
抱(だ)きあげると、キツネはおとなしゅうしとる。
爺さは、キツネを抱いて家へ帰り、看病(かんびょう)してやったと。
キツネは日毎(ひごと)に元気が出てきて、やがて、すっかり治(なお)ったふうだ。
爺さになついで、どこへ行くにもついて来るのだと。爺さとキツネのふたり暮(ぐ)らしが始まった。
ある日、爺さがキツネに、
「おらにも、せがれがひとりあったろも、どっかへ行ってしもて、いっこうに家へ帰って来ねえんだが、こうして、ひとりで暮らしているがだ。いまごろ、どうしているだが」
と、さみしそうに言うたと。
次の朝、爺さが起きたらキツネはいなくなっていたと。爺さは、
「キツネやー、キツネやー、おらのキツネやー」
と呼ばって、あっちの山、こっちの林とさがして歩いたが、キツネはついに現(あらわ)れなかったと。
何日かたって、爺さがキツネのことを思い出しながら庭で焚木(たきぎ)を束(たば)ねていたら、爺さのせがれが、ひょっこり帰って来た。そして、
「おら、何年も家をあけて申し訳が無(な)がった。こんだ、おらが帰って来たすけに、安心され。おらが働くで」
と言うた。
爺さ、涙流して、ウン、ウン、うなずいとったと。
爺さとせがれが暮らしているところへ、ある日、また、せがれが家へ帰って来た。せがれがふたりになった。ふたりのせがれを見くらべても顔形もいっしょなら、声までいっしょ。爺さには、何がどうなってこうなったのか、さっぱりわからん。
ほしたら、今度(こんだ)来たせがれが、前からいるせがれに、
「おれが、ほんとのせがれだがに。お前(めえ)はなんだや」
と言うた。
ほしたら前からいるせがれが、
「おらは、実はここの爺さに救けられたキツネだがや。恩返(おんがえ)しに、お前さんに化(ば)けてきたども、本当のお前さんが帰ってきたば、おらはこれでひまをもろうていぐ」
と言うて、それっきりどこかへ行ってしもうたと。
いきがポーンとさけた、鍋(なべ)の下ガリガリ。
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昔、あったそうじゃ。谷峠に人をとって食ってしまう、大変に恐い猫又が棲(す)んでいたと。強い侍(さむらい)が幾人(いくにん)も来て、弓矢を射かけるのだが、どれもチンチンはねて、当てることが出来なかった。
むがし、あるところに爺(じ)っちゃと婆(ばんば)ど居てあったさんべんた。二人暮(く)らしていた訳(わけ)だ。 家も貧乏(びんぼう)なって、天井(てんじょう)から雨もむるし、馬こもいてあったぁじ、売ってしまっで、今は居(え)ね訳だ。
「キツネの恩返し」のみんなの声
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