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うぐいすのだいり
『鶯の内裏』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 鮭延 瑞凰
整理・加筆 六渡 邦昭

 昔あったけど。
 昔あるところにな、お茶屋あったけど。
 きれいだ姉さんが毎朝のように五文価(ごもんあたい)ずつお茶買いに来るじょんな。
 番頭は不思議に思て、あるとき、そのあとさついて行ってみだ。長い野原を通って林の中にはいって行ったれば、りっぱな御殿があったけど。
 「こんにちは、こんにちは」
というたらな、毎日来る姉さんが一人いてお茶飲んでいたけど。
 「おやおや番頭さん、よくおいでになった。早くお上りなさい」
 て、お菓子だの餅だの、どっさりご馳走してくれたけど。しばらくして、


 「ちょっと用達(ようたし)に出るから、番頭さんは留守居して遊んでいてくれ」
と頼んで、出て行ったど。出て行くときな、次の座敷は十二座敷だから決して見てはならぬと、かたく断わって行ったど。
 見るなと言われれば、なお見たい。番頭がこっそり次の間を開けて見たればな、お正月の座敷であったけど。床の間にはな、松竹梅を飾り、鏡餅だの海老だの、昆布だの橙(だいだい)だの上(あ)げったけど。
 
 次の間は二月の座敷でな、初午(はつうま)でな、お稲荷さんの赤い鳥居がならんで大勢お参りしていて、いろいろの玩具(おもちゃ)売る大道店(だいどうみせ)でいっぱいだけど。
 その次の間は三月の座敷でな、お雛(ひな)さんだけど。お内裏さんだの五人ばやしだの鳩ぽっぽだの狗子(いぬこ)だの馬子だの、おもしろいもの尽(づく)しだじょうん。


 次の間はな、四月の座敷でな、お釈迦さんだじょうん。花御堂あってな甘茶の中さ、天にも地にも我ひとりてな、おぼこのお釈迦さんが立ってござらしたけど。
 その次はな、五月の座敷でな、端午(たんご)の節句でな、鯉幟(こいのぼ)りがたんと並んであったけど。鎧(よろい)冑(かぶと)だの、鋒(ほこ)だの長山刀だの、馬連だの小旗だの武者人形だの、飾って、笹巻だのうまい物だのいっぱいあったけど。
 その次は六月の座敷でな、歯堅めで氷餅食っていたけど。そうしてお山参りの人たちは梵天(ぼんてん)の大きなのかづいで毎日通(とお)って歩ぐけど。
 その次の間は七月の座敷でな、七夕さんで、青竹さ五色金銀の短冊つるして、桃だの瓜だの供(そな)えてお星さんのお祭りだけど。それから十三日お盆でな、秋草(ぼん)の花だのお供物だの持って、ご先祖さんのお墓参りだけど。あなたの村でもこなたの町でも鎮守さんのお祭りでドンドコ、ドンドコ太鼓の音がするやら、獅子舞だの村芝居だの番楽舞(ばんがくまい)だので大騒ぎだけど。


 その次の間は八月でな、月見の座敷だけど。団子だのぼた餅だのススキだの飾ってな、こおろぎ籠など釣るして、里芋のお汁(つけ)で酒飲みしてたけど。
 その次の九月の座敷はな、刈り入れ時だから、百姓たちはてんてこ舞いの仕事だけど。十三夜はあどの明月で、栗ゆでだの青豆だのご馳走あったけど。
 その次は十月の座敷でな、遠い山々は白い頭巾(ずきん)かぶって、庭の木の葉は、ひらひら、ひらひらと風に吹っ飛ばされていたけど。村々の家では、新しい餅で皆(みんな)腹ばんばんだけど。
 その次は十一月の座敷でな、霜月(しもづき)の恵比寿講だ。鮭の魚はうんと獲(と)れて、お振舞いだけど。そしてな、毎日毎日雪ばり降るけど。


 その次は十二月の座敷でな、師走で正月の仕度に餅搗(つ)いたり、正月肴(さかな)買ったり、煤払(すすはら)いしたりで、うんとせわしいから、子供たちはみんな邪魔にされて、部屋の炬燵(こたつ)さはいって昔語りして遊んでいたけど。
 座敷をみな見たらそのときな、ホーホケキョと啼(な)いたから番頭な、びっくりして周囲(あたり)を見たら、何んにも無くて、もとの野原であったけど。
 これは鶯の内裏というところで、容易(ようい)に人の行かれないところだけど。

 どんぺからっこねっけど。
 

「鶯の内裏」のみんなの声

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