民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 頓知のきく人にまつわる昔話
  3. かえんどん

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

『かえんどん』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 水沢 謙一
整理 六渡 邦昭

 昔、あったてんがのう。
 あるところに身上(しんしょ)のよい家があって、嫁をさがしていたと。
 なかなかいいのが見つからん。この家に出入りするかえんどんに聞いた。
 「かえんどん、かえんどん、おら家(ち)の嫁になるような女御(おなご)はないか」
 「そうだの、そこらを捜(さが)して、あればすぐに知らせるからの」
 かえんどんが嫁を捜しているうちに、正月がそこまでやって来た。が、なにせ貧乏で、年取り買物が出来んのだと。


 ある日、かえんどんは、
 「かか、かか、お前(め)の着物、ちょっくら貸してくれや」
 「何(な)してかえ」
 「正月が来るのに銭(ぜに)がのうて、年取り買物が出来ねえ。お前(め)の着物を質(しち)に入れようかと思う」
 「やだよ、これっきりの着物を質にいれたら、おら着るものがない」
 「じっきに銭をつくって、また受け出してくるから、そういうな」
 「じっきだね。ほんどだね。なら、仕方ねえ」
 かえんどん、嬶(かか)の着物を三両で質にいれた。帰りに油揚(あぶらあげ)や年取り魚なんかを買うて籠(かご)に入れ、背中に担(かつ)いで来た。


 原っぱにさしかかると、背中の籠を、誰かが引っぱるようだ。見たら、狐(きつね)がぶらさがっている。
 「こら、お前(め)何してる。おらの大事な年取り魚だぞ」
と、怒鳴(どな)ってやった。が、またちいっと行くと籠にぶらさがるので、油揚だけ呉(く)れてやった。
 
かえんどん挿絵:福本隆男


 「ほれ、これでがまんせい。
  おっそうだ、狐(きつね)は化けるというが、お前、きれいな嫁に化けられっか。そうしたら、もっといい魚も、油揚も、ごっつぉも、どんどと食わせられるが…どうだ」
 「嫁なんて、わけがない」
 「そうか、そんなら、嫁取りのどこを見せてくれ」
 「ほれ、見たがいい」
というて、クルンとでんぐりうったら、今、これから嫁入りだっちゅう姿になったと。


 「こんなところで、どうだ」
 「そうだな、それなら上物(じょうもの)だ。実は、あそこの身上のいい家で、嫁をほしがっているから、お前は嫁に化けれや。おらがとりもつからな。婚礼のおふるまいでは、うんまいものをどうどと食うことが出来るぞ」
 こういうて、かえんどんと狐は打ち合わせをしたと。
 かえんどんは、身上のいい娘御が見つかったが、嫁にどうだ、というたら、とんとんとんと話がまとまった。嫁取りの日が決まり、かえんどんが仲人(なこうど)をやることになったと。


 いよいよ嫁取りの日。
 村じゅうの者たちがみな、嫁を見に来た。
 かえんどんが嫁を連れてきたら、皆して、いい嫁だ、きれいな嫁だ、とたまげたと。
 にぎやかな祝言(しゅうげん)が始まった。
 かえんどんは、狐に、
 「狐、あんまりガツガツ食うな。後でゆっくり食えよ」
というておいたと。
 そのうちに、夜が更けてきた。
 皆が疲れているので、ご馳走(ちそう)はそのまま座敷(ざしき)においといて寝(ね)たと。


 ほしたら、夜中にガツガツと音がしている。
 家の人が不思議(ふしぎ)に思うて座敷に行ってみたら、狐がいい着物から尻尾(しっぽ)を出して角隠(つのかくし)の下では狐顔になって、そこいらのご馳走を食べていた。
 
かえんどん挿絵:福本隆男


 「この狐め、嫁に化けやがって」
と追(ぼ)ったくったら、狐はどこかへ逃げてしもうたと。
 「さて、かえんどんが居ねえど。どこへ行った。おらを騙(だま)して狐の嫁なんか連れてきてとんでもない奴だ。すぐに呼んでこい」
というて、旦那(だんな)はかんかんに怒ったと。
 かえんどん、実は、祝言のさかりに、こっそり抜け出して家に帰り、足にはれもんができたように細工をした。丸太ん棒のように太く巻いた布には、魚の血をぬりたくって、迎えのくるのを待っていたんだと。


 迎えの者が、
 「かえんどんは、いるか」
というので、嬶は、
 「あい、あい、おらの父(とと)は足をはらして、まあ見てくらっしゃい。こんげに足がはれて動くことも出来ずに寝ているとこです」
というた。そしたら、かえんどん、ここぞとばかりに、ウンウン唸(うな)った。つらそうだと。
 
かえんどん挿絵:福本隆男

 
 「こんな不調法なもので、せっかくの祝言ごとにも行かれませんで、すみません」
 嬶がたたみに頭をすりつけて謝(あやま)ったので、迎えの者は、
 「そうか、そうだったか。それじゃ、あのかえんどんも狐が化けておったか」
 こう、ひとり合点して帰って行った。
 かえんどんは、狐をつかって祝儀の銭を貰(もろ)うたり、ご馳走をどうどと食べたりしたと。
 嬶の着物も、すぐに質から受け出したと。
 
 いきがポーンとさけた。

「かえんどん」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

かえんどん、賢すぎますね! めっちゃ驚いきました! これは本当の話ですか? それなら、このかえんどんってやつは すぐにお金持ちになれると思うし、 狐を使えばなんもかんも上手く行くと 私は思います。( 10代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

鳥の巣裁き(とりのすさばき)

 むかし、むかし、  長州と土佐と薩摩(さつま)の侍(さむらい)が一緒に道中(どうちゅう)していて、ひとつ宿(やど)に泊まったと。

この昔話を聴く

きつつきと雀(きつつきとすずめ)

むかし、むかし。きつつきと雀は姉妹(しまい)だったそうな。あるとき、きつつきと雀は着物を織ろうとかせ糸を染めていたと。そしたらそこへ使いが来て、「親…

この昔話を聴く

小佐次(こさじ)

昔、あったずもな。  ある村さ歌よむ若ぇ者いで、小佐次と言ったど。そこの村の庄屋の一人娘、病気になって、なんぼ医者さかげても良くならねぇで、とうとう息ひきとってしまったど。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!