民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 面白い人・面白い村にまつわる昔話
  3. 涼み袋

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

すずみぶくろ
『涼み袋』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、ひとりの侍(さむらい)がお供を連れて、山道を越えよったげな。
 うんと日が照る暑い日のことで、侍もお供の者も「暑い、暑い」ち言いながら歩きよったところが、峠に一軒の店があって、看板に"涼み袋あり"ち言(ゆ)うて書いてあるっと。
 「ほほう、峠の店ち言うたら茶屋というのが通り相場、それが涼み袋屋とは面白い」
 ち言うて、侍が早速店に入って行くと、奥に小ざっぱりした身なりの爺さが、座敷(ざしき)の上(あ)がり端(はな)に腰掛けて、にこにこしておったと。 

 
 侍が、
 「こりゃ、涼み袋ち言う物(もん)があるかや」
 ち言うてきくと、爺さが、
 「へぇ、看板のとおりですきに」
 ち言うもんじゃきに、
 「そんなら二袋ばぁ、くれんか」
 ち言うて、紙袋のふくれたのを買(こ)うたっと。
 侍はそれをお供の者に持たして、ふもとの宿に着いたっと。 

 
 ところが、その晩あんまり蒸(む)し暑いもんじゃきに、お供の者を呼んで、
 「国へ持っていのうと思いよったが、こうも暑うちゃあ、こらえきれん。一袋持って来てくれんか」
 ち言うて、涼み袋を持って来さしたっと。
 袋の口を開けてみると、何とも言えん涼しい風が吹き出てきて、侍はその涼しさのおかげで、すやすや寝てしもうたっと。


 そしたら、お供の者も暑うてたまらんもんじゃきに、こらえきれんようになって、
 「こうも暑うちゃあ寝ることも出来ん。さっき旦那(だんな)さんが涼み袋を使うて気持ように寝なさったきに、ひとつおらも使うてみよ」
 ち言うて、紙袋の口を開けてみたそうな。
 すると、うんと気持がよかったもんじゃきに、
 「もうちょっと、もうちょっと」
 ち言うて、とうとう残り全部使うてしもうたっと。  
 「さあ困ったぞ、旦那さんがお目ざめになったら、きっともう一袋持って来い、ち言うにちがいない。困ったのう」
 お供の者は、さあて、と頭をひねりよったところが、ふと、ええことを思いついたそうな。
 浴衣(ゆかた)の尻をはしょってかがむと、空(から)になった涼み袋を尻に当てがい、すかしっ屁をス―ッとひり込んで、袋の口をパッと閉じたっと。
 また少したって、ス―ッとひり込んでパッと閉じる。


 ス―ッ、パッ、を二つ三つくり返して、袋の口を固くしばると元の所へ置いちょいたっと。
 すると、思ったとおり夜中ごろになって侍が目をさまし、
 「こう暑うちゃあやりきれん。こりゃ、残りの袋を持って来い」
 ち言うたそうな。
  
 お供の者は、そら来た、と思ったけんど、そこは知らん顔で、すかしっ屁の入った紙袋を持って行ったそうな。
 侍は、涼しい風をたのしみに紙袋の口を開けた。そしたら、む―んと、臭い風が吹いてきたそうな。
 「うっ、な、なんだ、この風は」
 ち言うて、むせっとると、お供の者が、
 「蒸し暑いけえ、風まですえちょりもしたなあ」
 ち、涼しい顔して言うたげな。

 むかしまっこうたきまっこう、
 たきからこけて猿のつびゃぁぎんがり。 
 

「涼み袋」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

火呑山池の大蛇(ひのみやまいけのだいじゃ)

 むかし、むかしの大むかしのことでがんすがの。  今の広島県の芦品郡(あじなぐん)に亀が嶽(かめがだけ)という山がありまんがのう、知っちょりんさろうが。そうそう、あの山でがんよのう。あの亀が嶽の中ほどに火呑山池がありまんがの、その池に一匹の大蛇(だいじゃ)が住んでおりまぁたげな。

この昔話を聴く

アラキ王とシドケ王(あらきおうとしどけおう)

 むかし、むかし、九州のずっと南にある喜界(きかい)ガ島(じま)というところに、二人の王さまがおったそうな。  アラキ王とシドケ王といって、ふたりとも、大層(たいそう)力持ちの王さまだったと。

この昔話を聴く

豆と炭とワラ(まめとすみとわら)

むかしむかし、あるところにお婆さんがおったと。お婆さんは、豆を煮ようと思って、空豆を水につけておいたと。柔らかくふくれたころ、鍋にザランとうつしたの…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!