― 新潟県佐渡ヶ島  ―
                                
                                                                                                                                                        語り 井上 瑤
                                                                                                                                                                                                                                            再話 六渡 邦昭
                                                                                                                                                                                                                                                                    
                            
                             むかし、あるところに婆(ばあ)さんと娘がいてあったと。
 ある晩げ、眠(ねむ)っていた婆さんは何かの音で目が覚(さ)めた。どうやら娘の部屋に若者風なのが来ているようだ。娘も年頃だで、と思ってまた眠ったと。次の日から素知(そし)らぬふりをして気をつけていたら、どうも毎夜(まいよ)毎夜のことらしい。そのうち娘がやつれてきた。
 ある日、婆さんは娘に聞いた。
 「これ、お前(め)ぇ。近頃(ちかごろ)毎晩景色のええ若い衆(し)がきているようだが」
 「いや、ばばさん、今晩こそゆっくり寝たい思って、いっくら部屋の戸に辛ん張り棒(しんばりぼう)をしておいても、どうやってくるもんだか、いつの間にか枕元(まくらもと)に座っとって、らちあかん」 
                            
                
 「どこの兄(あん)さんだ」
 「それが、まだ言わん」
 「そうか、ほんなら今夜、その男が来たら針に糸をつけて刺してやれ」
 「ほんなら、そうしる」 
 夜中になって、景色の良い若者が音もなくまた忍びこんで来たと。
 娘は用意してあった針を、若者の着物の裾(すそ)に刺したと。
 そのとたん、若者は「ウッ」と痛がり、もがき苦しんで、あれよあれよという間に、どこかへ逃げて行ったと。
 次の朝、婆さんは早速糸をたよりに後をつけてみた。
 糸は裏山の岩場まで延(の)びて、岩と岩とのすき間穴(すきまあな)の中へ消えていたと。婆さんは、
 「なんと奇妙(きみょう)なこともあるもんだ」
と思うて、穴の前でしゃがんでいたら、穴の奥から話し声が聞こえてきた。
 「こりゃぁ、まあ、ますますもって不思議(ふしぎ)なこともあるもんだ」
 婆さんは、岩の間に片耳ひっつけて、聞き耳立てたと。
        
                            
                            
 「おめえ、なんちゅうざまだ、体へ針なんぞ刺し込まれて。針は黒鉄(くろがね)ちゅうて、おらち蛇(へび)にとっては命とりだが」
 「そう言うたってカカさん、おらあ、人間の娘に七匹子をはらませとるし、おらが死んだって子が残るから、心配なえわ」
 「なにを馬鹿いう。人間ちゅうもんは利口(りこう)なもんで、そんなもん菖蒲(しょうぶ)を入れた湯に入りゃ、お前ぇの子はみんなげろげろっと堕(お)りてしまうが」
 婆さんは、それを聞くと、
 「はぁ、こりゃ、ええこと聞いた」
と大急ぎで家へ戻って、菖蒲湯(しょうぶゆ)を沸(わ)かし、娘をその中へ入れたと。 
 すると、こんまい蛇の子が、げろげろっと七匹堕りてきて、菖蒲湯にあたってみんな死んでしもうた。
 こんなことが昔にあったから、五月節句(ごがつせっく)には、今でも魔よけに菖蒲湯に入るんだと。
 いきがぽんとさけた。鍋の下ガラガラ。 
                            
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むかし、あるところに富山(とやま)の薬屋があった。 富山の薬屋は全国各地に出かけて行って、家々に置き薬していた。一年に一回か二回やって来て、使った薬の分だけ代金を受け取り、必要(いり)そうな薬を箱に入れておく。家の子供(こども)は富山の薬屋がくれる紙風船を楽しみにしたもんだ。
むかし、ある村にすぐれた娘(むすめ)をもった長者があった。 娘は器量もよいが、機織(はたおり)の手が速く、朝六(む)つから暮(くれ)の六つまでに一疋(いっぴき)の布(ぬの)を織(お)り上げてしまうほどだったと。
「五月節句の菖蒲湯」のみんなの声
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