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かえるにょうぼう
『蛙女房』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子

 昔、あったてんがな。
 あるところに父(とっつあ)と嬶(かっか)があった。
 あるとき父が沼のほとりを歩いていたら、道端(みちばた)で一匹の蛙(かえる)が蛇(へび)に、今にも呑(の)まれようとしていた。父は木の枝で蛇を払い飛ばして、蛙を助けたと。蛙はギャクと鳴いて草むらに姿を消したと。

 それからしばらくして、嬶が子供一人残して死んだと。
 そうしたら、子供が泣いてばかりで困っていたと。

 
 ある晩、若い女が訪ねてきて、
 「今晩ひと晩泊めてくれ」
と言うた。父は
 「おら家(ち)は乳呑子(ちのみご)一人置いて嬶に死なれてしもうた。それで乳(ちち)が無いんだが、毎日泣いて泣いて、おらもほとほと困ってしもた。お前(め)乳が出るかや、乳があったら泊まってくれ」
というた。

 「おら乳が出るから、飲ませてやれる」
 「それだら、ぜひ泊まってくれ」
 その女は、泊まって子供に乳飲ませてくれたので、子供はすやすや眠った。


 父は大層(たいそう)喜んだ。次の日になっても、また次の日になっても、その女は子供に乳を飲ませてくれて、一向(いっこう)に帰らんのだと。何日目かに、女は、
 「おらこと、ここん家(ち)の嬶にしてくれ」
というた。父は、こんな嬉(うれ)しい申し入れはないとばかりに、
 「そうか、お前(め)がその気なら、ぜひ嬶になってくれ」
というた。
 その女は、そこん家(ち)の嬶になったと。

 ある日、嬶が、
 「とっつぁ、とっつぁ、里で親の法事(ほうじ)があるので、ちょっくら、行かせておくれ」
というた。
 「そうか、ぜひ行ってくるがいい。親の法事なら、ローソクも線香も米もいるだろう。必要なものをみんな持って行けよ。」

 
 「なぁに、そんなものいらん。この身だけで行ければそれでいいんだ」
 嬶が出かけて行ったら、父は嬶の里ってどこだべ、思うた。今まで、聞いたこと無かったと。
 父、こっそり嬶の後をついて行ったと。
 そしたら、里へ通じる道ではなくて、沼の方へ行くのだと。不思議に思うて、尚(なお)もついて行ったら、沼に着いた。嬶、ジャボンと飛び込んだと。
 父、あっけにとられて、物陰(ものかげ)に隠(かく)れて見ていると、蛙が、あっちからも、こっちからも集まってきた。
 そして、和尚蛙(おしょうがえる)と小僧蛙(こぞうがえる)を真ん中にして、そのまわりをたくさんの蛙がかこんで、ギャク、ギャク、ギャク、ギャクと、大法要が始まったと。父、
 「さては、嬶は蛙であったか」
と気がついて、くやしくなった。
 「こうしてくれる」
とて、石を拾うて投げ込んだと。

 
 父、家に帰って、しらんぷりしていたら、やがて嬶が帰って来た。
 「今帰ったス。今日は法事に帰らせてもろうて、ありがとうござんした」
 「里の法事は、どんなだったや」
 「はい、それが、どうもこうもない。法事のさいちゅうに、でっこい石が飛んで来て、和尚さまに当たって死なれてしもうた。法事はさんざんなことになりもした」
 父、これではっきり判(わか)ったと。
 「こら、蛙め、何でおらと子供をだまくらかした」
 「あやぁ、お前さま、おらが蛙だと知ってしもうたかや。あやぁ、実は、おらは、お前さまに助けられた蛙だ。お前さまが乳飲み児をかかえて困っていたので、今までご恩報(おんほう)じをさせてもろうたった。素性(すじょう)が判ってしまったからには仕方がない。これでいとまごいをしましょう」
というて、蛙の嬶はどこかへいってしもうたと。

 いきがポーンとさけた。

「蛙女房」のみんなの声

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感動

感慨深いお話しで、涙がにじむ自分に驚いています。( 60代 / 男性 )

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