― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところにネズミとイタチがおって、川原でばったり出合ったそうな。
「ネズどん、ネズどん。ここの草むらをおこして、二人で粟(あわ)でも蒔こうや」
イタチがそういうと、ネズミも、
「それもいいな」
といって、気が合うた。
ふたりは、草むらをおこして粟の種を蒔いたと。
やがて芽を出し、いい具合に伸びてきた。
そこで、イタチがネズミの家へいって、
「ネズどん、ネズどん。粟がだいぶん伸びたようだが、畑の草むしりに行こうや」
というと、ネズミは、
「イタチどん、俺(おれ)は風邪をひいたようだ。悪いけど一人で行ってくれないか」
という。イタチは一人で畑へ行って、汗をぬぐいぬぐい草をむしって来た。
何日かたって、イタチがまた、
「ネズどん、ネズどん、今日は一緒に畑へ行かんかい」
というと、ネズミはまた、
「イタチどん、俺、今日はあいにく他に用があって」
と断わった。
イタチはまた一人で畑へ行って、草をむしったり、虫をとったり、肥をくれたりして、暗くなるまで働いて帰ったと。
丹精(たんせい)こめた甲斐(かい)あって、やがて、粟は狐の尻尾のような穂を出した。
イタチは、粟の穂が、だんだん黄金色になってくるのを見て、毎日楽しんでおった。
ところがある晩、ネズミがこっそり粟の穂首を刈りとって、粟餅(あわもち)を搗(つ)いて子供たちと食ってしまった。
そうとは知らないイタチが畑に行くと、粟の穂首がきれいにもがれている。
がっかりして、途方に暮れていると、そこへ鳶(とんび)がやって来た。
「トンビどん、トンビどん。お前さん、だれが粟の穂首をとったか知らないかい」
と聞くと、鳶は、
「ひとのもん、おらが何知るや。ピンロロピンロロ」
といって飛んで行ってしもうた。
烏(からす)が木に止っていたので、
「カラスどん、カラスどん。お前さん、だれが粟の穂首をとったか知らないかい」
と聞くと、カラスは
「ひとのもん、おらが何知るや。ガァオン、ガァオン」
といって、飛んで行ってしもうた。
雀が川原に水飲みに来たので、
「スズメどん、スズメどん。お前さん、だれが粟の穂首をとったか知らないかい。」
と聞くと、スズメは、
「ひとのもん、おらが何知るや。チュンチュク、チュンチュク」
といって、飛んで行ってしもうた。
イタチはがっかりして、ネズミの家へ行き、
「ネズどん、ネズどん。おらとお前の粟が誰かにとられてしもた」
と、すまなそうに話すと、ネズミは、
「それはまあ、困ったこんだ」
といって、何食わぬ顔をしたと。
すると、ちょうどそこへネズミの子供たちが出てきて
「ゆんべの粟餅、もっと食いてぇ」
といった。
親ネズミがあわてて、
「しいっ、だまってれや」
と、しかったが、小っさい方の子供が、
「粟餅くいてぇ」
「くいてぇ」
と、口を揃えてせがむので、イタチはやっとさとったと。
「さては、粟の穂首を刈りとったのは、お前のしわざだろう」
と、かんかんに怒って、ネズミを押さえつけて、その、いやしい歯を引っこ抜いてやった。
「全部抜きたいところだが、ちいっとは無きゃ、これから先困るだろう」
といって、前歯二本だけ残して勘弁(かんべん)してやったと。
ネズミの歯が二本だけになったのは、これからなんだそうな。
いちごさっけ、ねずみの尻尾ぶらんとさがった。
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九州の南、奄美群島(あまみぐんとう)のひとつ、徳之島(とくのしま)の母間(ぼま)あたりの集落には、昔は夜になると、“イッシャ”という小(こ)んまい妖怪者(ようかいもん)が、犬田布岳(いぬたぶだけ)から下りて来たそうな。
「ネズミとイタチの寄合田」のみんなの声
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