― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
うそかほんとか知らんが、その昔、亀は、カナチョロのようにすばやく走りまわっておったそうな。
あるとき、亀が日向(ひなた)ぼっこをしているところへ、雁(かり)が七羽、パタラパタラおりてきたと。
「雁どん、雁どん、おまえさんたちは、いつも天竺中(てんじくじゅう)を飛んであっちこっちのことをよう知っていなさる。おらときたら、いつも地べたばかりでほんとうにつまんねえ。一(いっ)ぺんでいいから、おらも天竺を飛んでみたい。おら、おまえさんたちがうらやましい」
「亀さん、亀さん、そんなに私達のことがうらやましいなら、私達が天竺へ連れて行ってあげましょう」
「ほんとうかい!?でも、どうやって?」
「そこにある棒(ぼう)を亀さんはしっかりくわえて下さい。どんなことがあっても、決してしゃべってはいけませんよ。しゃべれば地べたに落ちますから」
「ようしきた。おらはしゃべらんぞ」
亀が一本の棒のまん中をくわえると、両脇(りょうわき)に、雁が三羽づつ足でつかんだ。
一羽を先頭にして、雁と亀が空に舞いあがった。
亀は初(はじ)めて飛んだので、腹のあたりがこちょこちょとたよりない。思わず声を出しそうになったが、ぐっとこらえた。
慣(な)れてくると亀はうれしくなって、そこらをキョロキョロながめていたと。
ある村の上に飛んでくると、遊んでいた村の子供達が、雁と亀を見つけて、
「見れや、雁と亀が飛んで来たぞ」
「亀が雁にさらわれて行くぞ」
と、ワイワイさわぎはじめた。
これを聞いた亀は、思わずしゃべってしまった。
「そうでねぇ。おまえら、おらはさらわれていくんでねぇ」
そうしたら、亀は棒を離れて、空からまっさかさまに地べたに落ちてしまったと。
それからな、亀の甲らには、あっちこっちひびが入って、あんまり痛いもんで地べたをはうようにノソラ、ノソラ歩くようになったんだと。
亀の目をようく見てごらん、今も涙をながしているから。
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むかし、あるとことに大きな沼(ぬま)があった。 沼の東のはずれに、兄と弟が隣(とな)りあって暮(く)らしてあったと。 兄は、沼のまわりの繁(しげ)り過(す)ぎた木の枝(えだ)を払(はら)ったり…
「亀の甲ら」のみんなの声
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