― 長野県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
整理・加筆 六渡 邦昭
むかし。
あちこちの山を巡り歩いて修行(しゅぎょう)をするひとりの山伏(やまぶし)がおった。
ある日、野原を通りかかると、道端(みちばた)で一匹のキツネが、気持ちよさそうに昼寝をしていた。山伏は面白半分に、ちょっとおどかしてやれと思うて、肩にかけとった大きなほら貝をとると、足音をしのばせ、キツネに近づいた。
そして、キツネの耳にほら貝を当てて、思いっきり、
「ブオーッ」
と吹いた。キツネはびっくりして、
「キャン」
と叫んで跳びあがったひょうしに、そばの川へ、
「ジャッブーン」
と、落ちてしもうた。
山伏は、あんまりおかしいので、
「あっはっはぁ、あっはっはぁ」
と、大笑いしたと。
笑いながら野道を歩いていたら、今まで明るかった空が急に曇(くも)って、あれよあれよという間に、真っ暗になってしまった。
山伏が、おかしなこともあるもんだと思いながらなおも歩いていると、向こうから、
「チーン、ポクポク、ジャラーン」
「チーン、ポクポク、ジャラーン」
と、鳴り物を鳴らしながら、葬式(そうしき)の行列がやってきた。驚いたことに、棺桶(かんおけ)をかついでいる者たちには、首が無い。
山伏はおっかなくなって、そばにあった大きな木にワラワラとよじ登った。
ところが、首の無い者たちは大きな木の下までやって来ると、棺桶をそこに置いて、みな、どこかへ行ってしもうた。
山伏が木の枝につかまってふるえていると、そのうちに棺桶のふたが開き、中からネギのような細い白い手が、ニューッと出てきた。
そして、髪の毛を長くたらした死人(しびと)がその木を登りはじめた。
山伏はこわくなって、木の上へ上へと登っていった。すると、死人も山伏のあとについて登ってくる。山伏がもうこれ以上は登れんところまでいって下を見ると、やっぱり死人もあとをついてくる。
山伏は切羽(せっぱ)詰まって、
「ナム・アブラウンケン ソワカ」
と、呪文を唱えて、木のてっぺんから飛び降りた。
「ザッブーン」
と、川に落ちたと。
そのとたんに、真っ暗だった空が、カラーンと明るくなって、お日様は相変わらず空の真上で照っておった。
山伏が川の中でアップ、アップしているのを、一匹のキツネが遠くで見ておったって。
むかし、おしまい。
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高知県安芸郡北川村(こうちけんあきぐんきたがわむら)の野川に、要三(ようぞう)といって、とっぽこきの面白い男がいた。明治の頃に生きて、かずかずのとっぽ話をふりまいて今に語り継がれている。とっぽ話というのは、ほら吹き話のことでこれもそのひとつ。
「山伏とキツネ」のみんなの声
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