民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 妖怪的な動物にまつわる昔話
  3. 留やんとしばてん

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

とめやんとしばてん
『留やんとしばてん』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎

 大正の頃、土佐の羽根村(はねむら)に留(とめ)やんという大工がおった。
 あるとき、嫁にやった娘に子供が出来そうな、いうき、朝まだ暗いうちに隣り村へ出かけたと。
 すると、途中(とちゅう)で、
 「オンチャン、オンチャン」
と、誰やら呼ぶ声がする。ふり向くと、二メ―トルぐらい先に、小坊主がニコニコ笑いながら立っておる。留やんは、
 「おんしゃあ、なんの用なら」
 いうと、小坊主が、
 「オンチャン、すもうとろよ」
 いう。留やんはバカにするなと、舌打ちしょったが、
 「オンチャン、とろう。すもうとろうよ」
と、あんまりしつこうに言うき、とうとう相手になってとり始めたそうな。 

 
 「ヨイショ、ヨイショ」
 「ほりゃ、ほりゃ、こりゃどうじゃ」
 留やんは、力いっぱい小坊主を投げつけた。
 けんど、なんぼ投げられても小坊主は平気の平左。留やんはカッカして、力いっぱい小坊主をねじつけて、泥の中へ押しつけ、
 「どうじゃ、参ったか」
 いうと、うしろの方から、
 「オンチャン、ここぜよ」
 いう声がするき、ふりむくと、また小坊主が涼しい顔でニコニコ笑いよる。

 もう今度こそハラワタが煮えくりかえりそうになって、今しも飛びかかって行こうとすると、
 「こらこら、おまん、そこでいったい何をしゅうぜよ」
 こういうて、寄って来るもんがあるそうな。


 「あしゃ、この小坊主をやっつけゆうけんど、どういても勝てなあよ」
 留やんが悔しそうにこういうと、その男のひとは、
 「おまん、自分をみてみいや、ひとりぜよ。誰っちゃ、おりゃせんに。そりゃ石ぜよ」
 いわれて留やんは、ハッと気がついたと。
 ようよう見てみると、ひとりでタンボの中を転びまわったり、石をけとばしたりして、泥まみれ、血まみれになっておったそうな。
 「チャ、あしゃ(俺)、今の今まで、確かに小坊主と相撲をとりよったに、しょう(正)不思議なことじゃよ」
 「おまん、そりゃ、しばてんに化かされちょったろう」 
 「まっこと、ありゃ、しばてんじゃったか」
と、留やんは恐れいったそうな。

 昔まっこう猿まっこう、
 猿のつべはぎんがりこ。

  

「留やんとしばてん」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

猫檀家(ねこだんか)

むかし、あるところに貧しい山寺があって齢(とし)をとった和尚(おしょう)さんがすんでおったそうな。和尚さんは年老いた虎猫を飼って子供のように可愛がっ…

この昔話を聴く

馬方と鬼婆(うまかたとおにばんば)

むかし、馬を引いて荷物を運ぶ、ひとりの馬方(うまかた)がおった。ある日、馬方は山を越えた村へ出かけて行った。塩と魚をたあんと馬に背おわせて、コットリコットリ、峠(とうげ)までくると日が暮れてしまった。するとうしろから・・・

この昔話を聴く

猿蟹ひとりぽっち(さるかにひとりぽっち)

昔があったげな。ある山に猿(さる)がポツンとひとりでおったげな。海っ端(ぱた)にはカ二がポツンとひとりぽっちでおったげな。ある日猿はあんまりつまらな…

この昔話を聴く

現在884話掲載中!