― 鹿児島県薩摩郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
先(せん)もいい申すごと、ところも名も知らぬ話で-。そんなんでよかと?
ほうか、ほんならまあ、茶ァでも飲みながら聞きんしゃい。
昔、あるところに夫婦者(ふうふもの)がおいやって、二人の間に男の子が出きんしゃった。
その子は七ツ八ツになって使い事をよくするようになったが、親の言うことにそむいたことの無い子で、それが世間にも評判(ひょうばん)になった。
ある日、夫婦の話さることが、
「あの子は『いいや』っちぃ言葉を知っとんじゃろか」
「親にさからったこと無かとじゃもんねぇ」
「世間さまにゃぁ、なにをぜいたくなと言われるかも知れんが、たまには子にさからわれる親をやってみたい」
「一厘銭(いちりんせん)三枚持たして、その三厘の銭(ぜに)で大船一艘(おおぶねいっそう)もの儲(もう)けして来いと言ったら、それには『いいや』と言うじゃろねぇ」
こう話しているところへ、子供が外から遊んで戻って来た。
「おい、お前はこの三厘の銭で船一艘ほどの儲けをして来んか」
親が言うと子供は、「はい」と言うや、その銭をもろうて、チャッチャイ出掛けて行ったちい申す。
親二人は、アワアワと言うてあきれておいやった。
子供は足に任(まか)せて歩いて行くと、村はずれのある店先に、起き上がり小法師(こぼし)があった。店の者に、
「この小法師はいかほどですか」
と聞くと、
「はい二つで三厘です」
と言う。
子供は、起き上がり小法師を二つ買(こ)うて、また歩いて行った。行ったところが、途中に景色のよかところがあって、そこで涼(すず)んでいると、右の袂(たもと)の起き上がり小法師と左の袂の起き上がり小法師が、
「ここは景色のよかところじゃが、相撲(すもう)でも取ろうか」
と言うて、袂から飛び出して、取ったい、投(な)げたいを始めた。子供もそれを見て、しばらくは楽しみができらった。
その内、子供が、
「小法師ども、お前らは隣村行っても相撲取るか」
と言うと、
「はあい、取らじん、取らじん」
と言う。
子供は、これで大船一艘の儲けをせんにゃならん、と考えて隣村へ行ったって。庄屋(しょうや)のところへ行ったって。
「私は隣村の者ですが、明日、土で作った人形が相撲を取りますから、皆見物するようにどうか布令(ふれ)を出してくれやらんか」
庄屋は、「それは面白い」と言うて、“門銭(かどせん)十銭持って明日は見に来い”という布令をだし、浜辺に土俵も作ってくれた。
次の朝、浜辺の土俵の周囲(しゅうい)にたくさんの村人が見物に集まった。
子供は小法師を東と西に分けた。小法師はシコを踏(ふ)み合うて、取りおうた。
「こんな珍(めず)しい相撲を見れるなんて十銭やそこら安いもんじゃ」
と言うて、銭を投げる者、菓子を投げる者、反物(たんもの)を投げる者、皆が皆何やかやと投げてくれた。庄屋からも褒美(ほうび)がたくさん出た。
それを船に積(つ)んだら、いっぱいの荷物(にもつ)になった。
子供は船乗りをたのんで、旗印に“銭三厘で船一艘の儲け”と書いて隣の自分の村の港へ入った。
親は、
「こっら、ほんにまあ、ほんまか」
と驚(おどろ)きんしゃった。
それから親子は結構な暮らしをしたということだ。
ここずいのむかし。
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むかし、むかしの大むかしのことでがんすがの。 今の広島県の芦品郡(あじなぐん)に亀が嶽(かめがだけ)という山がありまんがのう、知っちょりんさろうが。そうそう、あの山でがんよのう。あの亀が嶽の中ほどに火呑山池がありまんがの、その池に一匹の大蛇(だいじゃ)が住んでおりまぁたげな。
昔、あるところに若い夫婦者(ふうふもの)が古猫とくらしておったそうな。 あるとき、 夫が山仕事に出掛けたあとで、炉端(ろばた)で居眠(いねむ)りしとった猫(ねこ)がムックリ起きて、大きな目でギロリとあたりを見廻(みまわ)してから、嫁(よめ)さんの側(そば)に寄って来たと。
「出世息子」のみんなの声
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