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ききみみ
『聴耳』

― 長崎県南松浦郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところにお爺さんとお婆さんとがあったと。
 お爺さんは毎日山へ行って木を伐(き)り、町へ売りに行って、その日その日を暮らしていたと。

 ある日、お爺さんは材木屋(ざいもくや)から頼まれた太い松の木を探しに山へ行った。
 山の中を奥へ奥へと探し歩いて、とうとう大きな松の木を見つけたと。
 「ほぉーほぉーほぉー、見つけたぞい。こりゃええ、頼まれた松にぴったりじゃ。今日は、お前(め)を見つけるのに手間ぁかかったから、明日伐ってやろうな。それまで、ここにこうしておれ」
 お爺さんは、松の木をピシャピシャ叩いて語り、その日は家に帰った。  

 
 夕餉(ゆうげ)時に、
 「婆さんや、今日はいい松の木を見つけたから、明日の朝は早ようから山へ行かにゃならん。弁当こさえておいてくれんか」
 「そうかえ、見つかりましたか、いい松の木が。それはよかったなぁ爺さん。弁当、ちょっと多めに作っておきましょうかえ」
 「そうしてくれるか」
 「はえ」
と話しあって、茶をすすって寝たと。

 次の朝、お爺さんは、お婆さんがこしらえてくれた弁当を持って、山へ行った。奥へ奥へと分け入って、昨日見つけた松の木にたどりついたと。仕事をする前に、その松の木の根元(ねもと)の石に腰掛けて、煙管(きせる)で煙草(たばこ)を一服したと。 

 
 そしたら、その松の木の上の方から、一匹の大っきな蛇が下りて来て、枝にぶら下がって、赤い舌をシューッシューッと出したりひっこめたりしながらお爺さんを見たと。そして、
 「わしは永い間この木の世話になってきた。今この木を伐られると、わしの宿り木(やどりぎ)が無くなる。それは困る。なるべくなら、爺さにも災(わざわ)いはしたくない。
 もし、この木を伐らないでくれるなら、爺さに特別な智恵(ちえ)を授けてやるが、どうだ」
と言うた。
 「特別な智恵って何だ」
 「鳥や獣の言葉が判る智恵だ」
 お爺さんは災いされても困るし、鳥や獣の言ってる事が判ったら、さぞかし面白いだろうなと思ったので、
 「そんなら、この松の木は伐らない」
と、言うた。そしたら蛇は、
 「そこで目をつぶって、じっとしておれ」
と言うて、松の木から下り、お爺さんの躰(からだ)を這いあがって、頭をグルリと巻いて締めつけた。そして、鎌首(かまくび)をお爺さんの顔の正面に向けてハァーと息を吹きかけたと。

 
 蛇がお爺さんの躰から離れて松の木に戻っていく気配(けはい)がしたので、お爺さんは目を開けた。
 蛇は、枝にぶらさがって、赤い舌をシューッ、シューッと出したりひっこめたりしながら、お爺さんを見ていたと。 
 お爺さんは、頭が割れそうなくらい痛かったと。
 家に帰り着いたお爺さんは、すぐに寝たと。
 お婆さんが心配して、
 「あんばいはどうだえ」
ときいても、お爺さんは、
 「今は寝かしといてくれぇ。明日話してやるから」
と言うて、イビキをかいて眠ったと。

 次の日の明け方、お爺さんは、
 「コケコッコー」
という鶏(にわとり)の啼(な)き声で目をさました。頭はぜんぜん痛くなかったと。また、
 「コケコッコー」
と鶏が啼いた。


 お爺さんは、あはは、と笑うた。
 するとお婆さんが目をさまし、
 「どうしましたかえ、あんばい快(よ)くなったかえ」
ときいた。
 「なぁんも心配はない。大丈夫だ。今笑うたのは、あの鶏がな、『もっと寝ていてぇー、腹減ったぁー』言うているんで、いっつもそんなこと言うて啼いていたんかと思うたら、ついおかしくてな、それで笑うたんだ」
 「あれ、お爺さん、鶏の言うことが判りますかえ」
 「うん、今朝、目がさめたら、突然判るようになっとった。実はな、昨日、山から帰ってきてすぐ寝たろが、それには訳があってな」
 これこれこうだと、お爺さんはお婆さんに、松の木と蛇とのことを話したと。お婆さんは、
 「それはそれは、そんなことが本当にあるんですかねぇ。お爺さんが無事でなによりでした。それが一番ですぅ」
と言うて、胸なでおろしたと。 

 
 次の日、お爺さんが町の中を歩いていると、荷物を背負わした牛をひいて、一人の男が向こうからやってきた。その牛が、
 「モー、モー」
と鳴いた。お爺さんは、
 「こらっ、泥棒(どろぼう)」
と、大声で叫(さけ)んだ。男はびっくりして、牛を捨てて一目散(いちもくさん)に逃げて行った。
 牛は、こいつは泥棒だ、俺も盗まれてきた、と言うていたんだと。
 お爺さんがその牛に、
 「さあ、お前(め)の家に帰るべ」
と言うと、牛は来た道を戻って行く。お爺さんはその牛について行って、飼い主の家にたどりついたと。 
 その牛を渡したら、飼い主は大層喜んで、たくさんのお礼をくれたと。 

 
 ある日、庭の木にとまった雀(すずめ)が、
 「人間ってのは馬鹿だよ。お宮の檜(ひのき)の木の根元にある石の下に、この間捕(つか)まって殺された盗人(ぬすっと)が、千両箱を埋(う)めて行ったのに、誰も知らないのだから」
と話していたと。
 お爺さんは、早速お宮へ行って、檜の木の根元にある石の下を掘ってみた。
 そしたら、雀の言う通り、本当に千両箱が出てきた。
 お爺さんは、その千両箱をお役人に届けたと。
 お爺さんは、お役所から、ごほうびだ言うてたくさんのお金をもらったと。
 そのお金で、お爺さんとお婆さんは安楽に暮らしたと。

 こりぎりぞ。 

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