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にわとりじさま
『にわとり爺さま』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 平野 直
整理 六渡 邦昭

 むがしあるどごろに、気の好い爺(じ)さまど婆(ば)さまがあっだどさ。
 あるどき、婆さまに団子(だんご)こさえで貰って、爺さまァ山さ木イ伐(き)りに行ったどさ。
 昼時になったので婆さまこさえで呉(け)た団子食うべと思って、包コあげるど、団子ひとづころころど転(ころ)がったどさ。

 
にわとり爺さま挿絵:福本隆男

 「団子、団子、どこさ行ぐでェ」
ど、爺さま団子追(ぼ)っかげだれば、団子、
 「向かいの山の、地蔵さまの元までまいる」
と、転がって行ったどさ。


 行ってみだれば、なるほど、地蔵さまが立ってござったどさ。転げで来た団子ァ、地蔵さまの前さ止まったどさ。地蔵さま、
 「これはうまいお供(そな)えもんだ。ありがたい」
ど、むしゃむしゃ食べてしまたどさ。
 食べたあとで爺さまさ、
 「団子もらって、何の礼じるしもないが、晩げになるど、こごさ鬼ァだつが来る。夜中さなったらば、おれの背中さ隠(かく)れていで、鶏(にわとり)コの啼(な)ぎ真似(まね)コ三遍(さんべん)してみろ。必ずええごどがあるがら」
といって呉(け)だどさ。


 爺さま、いわれるとおりにして待ってるど、なるほど夜中に、赤鬼だの青鬼だのが出てきて、ジャングゴングど金の分け前ば始めだどさ。
 地蔵さまは「ほれ、今だ」と言ったので、爺さまァ、パタパタ、コケコッコーど、三遍、鶏コの啼(な)く真似したどさ。そしたれば鬼だつァ
 「ありゃ、夜が明げるでェ。それ、逃(に)げろ」
ど、金もなもそこさ置いだままにして逃げでしまたどさ。
 それば爺さま掻き集めで、地蔵さまさよぐお礼申して、家さ持って帰ったどさ。


 そして、婆さまさ今日の出来ごと話してるど、そこへ隣(となり)の欲深爺(よくふかじんじ)ァ、それを聞耳(ききみみ)して欲起こした。家さ戻って、
 「婆(ばんば)な、婆な、おれさも団子つくって呉(け)ろ。山さ行ってくる」
ど、いって、団子作ってもらって出がけだとさ。
 山さ行たども木など一本も伐(き)らねで、欲深爺ァ、まだ昼にならねがァまだ昼にならねがァど、待っていだどさ。
 しまいには、昼になるのを待ち切れなぐなって、包コ開げだどさ。


 したども、団子ァなんぼうにも転がらながったどさ。
 「それ転がれ、それ転がれ」
ど、自分で転がしてたもんで、向かい山さ着く頃は、団子ァ土だらけの真っ黒になってしまったどさ。
 地蔵さまさあげたども、苦々(にがにが)しい顔して食いたがらないので、無理に口さ押しつげて、塗(ぬ)りたぐって置いだどさ。


 夜になったれば、いづものように赤鬼だの青鬼だのが来て、銭(ぜに)コ勘定(かんじょう)始めだどさ。
 欲深爺ァ、地蔵さまの肩さ乗って、
 「ケケロー」
ど、鶏の真似コしたどさ。そしたら、鬼だつァ
 「なんたら早ぇ夜明けだ。逃げろや」
ど、銭コ置いだまま逃げだどさ。
 
にわとり爺さま挿絵:福本隆男

 
 そだども、あんまり慌(あわ)てだので、一匹の鬼ァ、虎(とら)の皮の褌(ふんどし)、茨株(いばらかぶ)さひっかけで、どたばたしてたどさ。
 それも知らねで欲深爺ァ、地蔵さまの肩がら下りで行ったけェ、鬼ァそれを見つけで、
 「やあ、鶏だど思ったら、この爺(じん)ごがァ。
  昨日の晩げだましたのも、手前(てめ)だな。みんな来いじゃあ」
ど、仲間ば呼びもどして、やっし、もっしどいじめ殺してしまったどさ。
 これで、どんど払(はれ)ェ。
 

「にわとり爺さま」のみんなの声

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楽しい

とても、おむすびコロリンのようなお話で、楽しいです!( 10代 / 女性 )

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