― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、昔、あったと。
日本(にっぽん)の狼(おおかみ)のところに、天竺(てんじく)の唐獅子(からじし)から腕競(うでくら)べをしよう、といって遣(つか)いがきたそうな。
日本の狼は、狐を家来にしたてて、天竺へ行ったと。
天竺では唐獅子と虎が待っていた。
はじめに吼(ほ)えくらべをしたと。
唐獅子が一声七里四方の鍋釜(なべかま)もさけるような声で吼えた。狼と狐は、穴を掘ってその中に入ってけろりとしていたと。
その次は、駆(か)けくらべをしたと。
一日千里を駆ける虎(とら)と狐の競争になった。
虎が駆け始める寸前(すんぜん)に、狐は蟻(あり)に化けて虎の尻尾(しっぽ)にしがみついた。
虎は尻尾を真一文字にのばして駆けに駆けた。向こうに着くと、虎はふり向いて、
「どれ、狐はどの辺を駆けているかな。やぁ、見えないほどおくれとるか」
と、カッカ、カッカとごうけつ笑いしたと。
そのすきに虎の尻尾からおりた蟻が、元の狐の姿(すがた)に戻(もど)って、虎の背中(せなか)へ、
「やぁ、虎どのは今着いたか」
というて、うそぶいたと。
一番終いの競べっこは、おのおの、技(わざ)をつくしての腕競べであったと。
狐は富士山をこしらえ、竹藪(やぶ)や岩や木などを生(は)やして、虎と唐獅子の住みよい家をつくってやった。虎と唐獅子は、
「こんなことまでしてもらって、すまないな」
といって、そこへ入って行ったと。
そしたら狐は、家のまわりを泥(どろ)海にして、虎と唐獅子を逃(に)げられないようにし、それから、どんかどんかと、火をかけた。
虎と唐獅子は、どうあっても火から逃(のが)れられなかった。とうとう、狐に、
「助けてくれぇ」
と、泣いて降参(こうさん)したと。狼は、
「日本のけだものは、狐でさえもこれほどだ、狼のおらが出るまでもない」
と威張(いば)ったと。
狼は狐をつれて日本へ帰って来たそうな。
どんとはらい。
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六月は梅雨(つゆ)の季節だが、昔からあんまり長雨が降ると嫌(きら)われるていうな。 昔、昔、あるところに親父(おやじ)と兄と弟があった。 兄と弟が、夜空を眺(なが)めていると、お星さまがいっぱい出ている。兄は弟に、 「あのお星さまな、あいつ、雨降(ふ)ってくる天の穴だ」というたと。
「狼と狐と唐獅子と虎の競争」のみんなの声
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