天人子は、ずるがしこいな。( 10歳未満 / 男性 )
― 岩手県 ―
語り 平辻 朝子
採話 佐々木 喜善
再話 六渡 邦昭
昔、岩手県(いわてけん)の六角牛山(ろっこうしさん)のふもとの里(さと)に百姓(ひゃくしょう)をしている惣助(そうすけ)という男があったと。
里の附近(ふきん)には七つの池があり、その中のひとつに巫女石(みこいし)という石のある池があった。
ある日、惣助が池へ魚釣(つ)りに行ったら、六角牛山の天人子(てんにんこ)が飛(と)んできて、巫女石に羽衣(はごろも)を脱(ぬ)ぎ置(お)いて水遊(あそ)びをしたそうな。
惣助は、その羽衣があまりに美(うつく)しかったので、そおっと盗(ぬす)んで家へ持ち帰ったと。
天人子がさて帰ろうとしたら羽衣がない。しかたなく朴(ほお)の葉(は)で身体(からだ)をおおって惣助の家へ行った。
挿絵:福本隆男
「先程(さきほど)魚釣りをしていたのはあなたですね。もしや、私の羽衣を持って来はしませんでしたか」
ときくと、惣助は、
「悪(わる)いこととは思うたけれど、あまりに珍(めずら)しい着物だったので、今、殿様(とのさま)に献上(あ)げて来たばかりだ」
と、嘘(うそ)を言うた。天人子は、
「あの羽衣がないと、天に帰られません」
と、大層(たいそう)なげいた。そして、
「それでは、私に田を貸(か)して下さい。その田に蓮(はす)を植(う)えて、糸(いと)を採(と)って機(はた)を織(お)りますから」
と頼んだと。
惣助は田を貸し、巫女石のある池のほとりに笹小屋(ささごや)も建ててやったと。
やがて、田一面に蓮の花が咲(さ)いた。天人子は蓮から糸を採って、笹小屋の中で糸を紡(つむ)ぎ、きれいな声で歌をうたいながら機を織ったと。
惣助は気になってならない。見るなと言われていた笹小屋の中を、そおっと覗(のぞ)き見した。そしたら、キー、パタン。キー、パタン。という筬(おさ)の音は聞こえるけれど、天人子の姿は、どうしてか見えなかったと。
惣助は、嘘(うそ)をついたり約束(やくそく)を破(やぶ)ったりした己(おのれ)がなさけなくなって、天人子の羽衣を本当に殿様へ献上(けんじょう)したと。
天人子は、まもまくマンダラという布(ぬの)を織り上げた。そして惣助に、
「これを殿様に献上(あ)げて下さい」
と頼(たの)んだそうな。
惣助がそのマンダラを殿様に献上すると、殿様はこの布を織った女を見たい。また、何か望(のぞ)みがあるなら申(もう)してみよ、と言うた。
惣助が家に帰って天人子に伝(つた)えたら、
「殿様の御殿(ごてん)にご奉公(ほうこう)がしたい」
と言う。
天人子を連れて御殿へ行ったと。
殿様が天人子を見ると、この世(よ)の者とは思われない、それは美しい娘(むすめ)ごであった。
殿様は喜(よろこ)んで御殿に置(お)いた。そして、まるで奥方(おくがた)のように天人子をもてなしたと。
夏になって、お城(しろ)でも土用(どよう)の虫干(むしぼ)しをしたと。天人子の羽衣も干された。
天人子は、おつきの者が目を離(はな)した隙(すき)にその羽衣をさっと身(み)にまとい、あれよという間に六角牛山の方へ飛んで行ったと。
殿様は大層なげいたけど、あの娘(むすめ)がもともと天人子であれば天に帰ったのは仕方(しかた)のないことだとあきらめたと。
そして、布に織られたマンダラを、これは天人子が織った尊(とうと)い物だからというて、光明寺(こうみょうじ)というお寺に奉納(ほうのう)したと。
それ以来(いらい)、光明寺のある村はマンダラの綾織(あやお)りがあるところから綾織村(あやおりむら)と呼(よ)ばれるようになったそうな。
いんつこもんつこ さかえた。
天人子は、ずるがしこいな。( 10歳未満 / 男性 )
面白かったよ ( 10代 )
昔、昔、あったと。 日本(にっぽん)の狼(おおかみ)のところに、天竺(てんじく)の唐獅子(からじし)から腕競(うでくら)べをしよう、といって遣(つか)いがきたそうな。日本の狼は、狐を家来にしたてて、天竺へ行ったと。 天竺では唐獅子と虎が待っていた。
むかし、越中(えっちゅう)の国、今の富山県にある村に横笛のたいそう上手な若者がおったと。 若者は炭焼きだった。山の中に小屋と窯(かま)を作り、そこに寝泊(ねと)まりしながら炭を焼くのだと。若者はなぐさみに夜毎(よごと)笛を吹(ふ)いていた。
「天人子」のみんなの声
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