人間になれるなんてすごい( 10代 )
― 岩手県遠野市 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに一人の貧乏な男と、欲深(よくぶか)な長者が隣りあって住んでおったそうな。
ある夜長者は、飼っていた一匹の牝猫(めすねこ)にエサをやるのが惜くなって、首筋をつかんで外へ投げ棄てたと。
猫はニャア、ニャア鳴いて、隣の貧乏な家へ行ったと。
隣といっても、昔の田舎のことだ、ずうっと一町(いっちょう)も離れとる。
そこを、とぼら、とぼら歩いて行ったと。
隣の貧乏な男が寝ていると、窓の下で、しきりに猫の鳴き声がする。ふびんに思って、
「こんな夜中に、お前、どうして外で鳴いとるや。また、お前の御主人にひどい目にあわされたのか。どらどら、それならおれのところにいろ」
と言うて、内に入れてやったと。
それからは毎日、なけなしの食べ物を自分と同じように分けて、可愛いがっていたと。
ある夜、男がいつものように猫を懐(ふところ)に入れて寝ながら、
「お前が人間だったらよかったになぁ。おれが畑へ出て働いているうちに、お前は家に留守番していて麦粉でも挽(ひ)いておいてくれでもしたら、なんぼか暮らし向きが楽になるべえに。お前は畜生のことだから、それもできない相談だなぁ」
と、つぶやいたと。
次の朝、男はまだ星のあるうちから起きて、山の畑へ行って働き、夜にお月さんが出てから家へ戻ったと。
すると、灯(あかり)もつけない家の中で、だれかが挽臼(ひきうす)を、ゴロゴロ挽(ひ)いているものがあった。
「だれだろ」
不審に思って、そおっと入ってみると、何と、猫が挽臼を挽いておった。
「猫、猫、おれが夕(ゆん)べ、あんなことを言うもんだから、お前、挽臼を挽いてくれたか」
と、目を真(ま)ん丸(まる)にしてたまげたと。
挿絵:福本隆男
男は、いよいよ猫が可愛いくなって、その晩、小麦団子をこしらえて、猫と食うたと。
「お前の挽いた小麦粉で作った団子だ。食え、食え、うんまかろう。おれも今日ほどうんまいと思うたことはないぞ」
言うたら、猫も、
「ニャア、ニャア」
嬉しそうな声を出して食うたと。
それからはいつも、男の留守の間には、猫が挽臼を挽いてくれたと。おかげで男は大層助かったと。
ある晩、囲炉裏の火に当っていると、猫が、
「私はこのまま畜生(ちくしょう)の姿をしていては、思うように恩返しが出来ないから、これからお伊勢参りをして人間になりたい。ついては、どうか暇(ひま)を下さい」
と言うのだと。
男は、いよいよこれはただの猫ではない、と思うて、猫の言うがままにしてやった。
猫のおかげで少しばかりたまった小銭を、首に結(ゆ)わえつけて旅に出したと。
猫は、途中で悪い犬にも狐にも出会わず、しゅびよくお伊勢まいりをしたら、神様が、
「お前のことはわしもつくづく感じ入っておった。お前の願いを叶えてやろう」
こう言われて、猫を人間の美しい娘にしてくれたと。
娘になった猫は、喜んで家に帰って来た。
男と娘は夫婦(めおと)になって、二人で朝星月星を見ながら働いたので、末には隣の長者よりも、分限者となって、一生安楽に暮らしたそうな。
いんつこ もんつこ さかえた。
人間になれるなんてすごい( 10代 )
最後に幸せになって良かった 良いお話だった!( 10歳未満 / 女性 )
まぁこの話は猫はクソ可愛いということを感じさせてくれる話ということですね( 10歳未満 / 女性 )
まさに最高傑作にゃね( 20代 / 男性 )
いいはなし
猫ちゃんよかったね~あの男の人もあんなかわいい猫ちゃんを拾わないわけがないよ ( 10歳未満 / 女性 )
長者は猫を投げ捨てるなんてひどいけど、隣の貧乏な男は貧しいのに、 猫を迎え入れてあげてとても優しい!その猫も優しい! だからこそ、2人は幸せになれたのかな^v^~
心温まる良いお話でした。貧しいながらも分け与える男と獣ながらも石臼を挽く猫。二人の愛に胸打たれます( 20代 / 男性 )
むかし、むかし、あるところに歌の三郎と笛の三郎という若者が隣合って住んでいた。歌の三郎は歌が上手で、笛の三郎は横笛が上手だった。二人は、もっと広い世界で芸を試してみたくなった。歌試し、笛試しの旅へ連れだって出かけたと。
むかし、窪川(くぼかわ)の万六(まんろく)といえば、土佐のお城下から西では誰一人として知らぬ者はない程のどくれであったと。ある日、あるとき。旦那(だんな)が所用(しょよう)があって、高知(こうち)のお城下まで行くことになったそうな。
「猫女房」のみんなの声
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