たったの一言が恐いものですね。( 10代 / 男性 )
― 石川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、あるところに薪伐り(たきぎきり)をして暮らしている男がおったと。
ある冬に、薪(たきぎ)を伐(き)りに山へ行ったら、急に吹雪(ふぶ)いて、前も後ろも見えんようになったと。
「こりゃ大事だ。このままでは死んでしまう。どうしたらええか」
身体(からだ)を丸くして思案(しあん)していたら、ふと、以前に見つけた熊の岩穴(いわあな)のことを思い出した。
ようやくのことでその岩穴を見つけて中に入ったと。
「熊がおらねばいいが」
と祈りながら、奥へいざり寄って目を凝らしてうかがうと、なんと、奥では大っきな熊が寝そべっておって、男の方をじいっとみておるんだと。男は、
「うぎゃー」
いうて、逃げようとしたけど腰が抜けて動けん。
「あう、あう」
いうて、土をひっかいているだけだと。
今噛(か)まれるか、今喰(く)われるかと、目をかたくつぶっとったが、熊はいっこうに襲ってこん。おそるおそる目を開いて熊を見ると、熊は、こっちへ来い、というような手まねきをしている。
男がこわごわ近づくと、熊はその男を自分の腹にかかえ込んで温めてくれたと。
男の腹がクーッと鳴ると、熊は自分の手の掌(ひら)をなめさせた。そしたら不思議なことに、空腹(すきっぱら)がおさまったと。
外では吹雪が何日も何日も続いて、熊の岩穴の口がすっかり埋(う)まって終(しま)った
男は熊と一緒に、腹が減ると熊の手の掌をなめて一冬(ひとふゆ)過ごしたと。
やがて、雪が解けはじめて、蕗(ふき)のとうが萌(も)え出るようになったと。そしたら、熊は男を穴の外へ押し出したと。男が、
「永々(ながなが)、世話になり申した」
というと、熊は、
「わしがここにおることを誰にも話してくれるな」
というふうに手振りをするのだと。
「なんの、命を助けてもろうて、決して恩を仇(あだ)では返しません」
こういうて、男は山を下りて村へ戻ったと。
村人たちは、てっきり死んだと思っていた男が生きて帰ったので、もう、びっくりするやら、喜ぶやら、大騒ぎだと。
「永いこと、どうしておったい」
と、どこへ行っても聞かれる。
男は、つい、
「熊に助けられて、熊の岩穴で熊の手の掌なめさせてもろうておったや」
というてしもうたと。
村人たちは、熊と聞いてはただならん。
「その熊、なんとしてでも獲らなならん」
と、村中の男たちで槍(やり)を持って山にいったと。
やがて、その熊を仕留めて、四ツ足を縄(なわ)でくくって棒で担(かつ)いで戻って来た。
そして、村長(むらおさ)の家の庭に縄をはずして置いたと。
男がそれを見に行って、熊の前で、ボロボロ涙を落として、
「おお、お前(め)、悪いことし申した。この手の掌をなめさせてもろうて生かしてもろうたのに、とりかえしのつかねえことをし申した。……ついうっかり言ってしまったばかりに……」
こういうた時だった。
いきなり熊の手が男の顔を横なぐりしたと。
バシッと音がして、その男は死んでしもうたと。
しんなえも かんなえも とりのくそ
たったの一言が恐いものですね。( 10代 / 男性 )
むかしあったと。 ある村のはずれに、化け物が出るというお寺があった。 村の人達はおそろしいもんだから、誰(だれ)もそのお寺には近づかないようにしていた。
「熊に助けられた男」のみんなの声
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