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『シロネズミ』

― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんがおったそうな。
 あるとき、爺さんが恵比須(えびす)様のお祭りで町へ行ったら、露天商人(ろてんしょうにん)がシロネズミをたくさん売っておった。
 「こりゃ、ええもん見つけた」
 爺さんは、早速(さっそく)一匹買うて、家に戻(もど)った。


 「婆さん、婆さん、いいもん買うて来た。ほれ、これじゃあ」
 「あゃぁ、大黒様の使姫(つかいひめ)、かわいやなぁ」
 「これが家の中におると、お金がネズミ算のごとく、ドンドコ、ドンドコふえて、長者になれるっちゅうから」
 「爺さん、いいもの買うて来たなぁ」
 「天井裏(うら)に棲(す)むか、カマド裏に棲むか、さぁ、放してやろうかい」
 爺さんが合わせとった両手(りょうて)をひらくと、シロネズミは、たちまち壁(かべ)の破(やぶ)れ穴(あな)の中に逃(に)げ隠(かく)れてしまった。それっきり、何日たってもいっこうに目に掛(か)からない。
 「せっかく爺さんが買うて来たのに」
 「こんなことでは、お金は、やはりたまらんのじゃろうか」
 爺さんと婆さんは、すっかりひょうし抜(ぬ)けしてしまったと。


 「肝心(かんじん)のシロネズミは見つからんけど、黒ネズミのほうは、近頃(ごろ)、また、ひどいふえ方じゃなぁ」
 「ほんに、昼日中(ひるひなか)にさえも家の中を駆(か)けまわるようになった」
 「こりゃ、どうにもかなわん。今日は、ひとつ罠(わな)でもこさえてやろうか」

 爺さんは、桝(ます)落しを仕掛けたと。一升桝(いっしょうます)を伏(ふ)せて細いつっかえ棒(ぼう)でささえ、出入口に米粒を撒(ま)く。ちょっとでもさわると、ネズミが桝の中へ伏せ込(こ)まれるという仕掛けだ。

 待ちかまえていると、夜中頃に、ストンと桝の落ちる音がした。
 「そうれ、かかった」
 桝に着物をかぶせて、うまくネズミをひっつかみ、力まかせに土間へ投げつけた。
 ネズミは、一声「チュウ」と鳴いて伸(の)びてしまった。


 「死んだかな」
と、土間へ下りて、よくよくみたら、何と、それが、大事な大事なシロネズミだったと。
 「アヤヤヤァ、シロネズミは、やっぱりおってくれとったのか。こりゃ、いかん。婆さん早う水汲(く)んで来い。気つけ薬を出せ」
 爺さんと婆さん、二人してうろたえ騒(さわ)ぎ、それでも手を尽(つく)して介抱(かいほう)したので、シロネズミはやっとのことで目を見開いた。

 「やれやれうれしや」
 「早う元気になっておくれ」
 ほっとして拝(おが)むようにしとったら、シロネズミは、ふいに梁(はり)の上へ駆け上って、ブルブルッと身ぶるいした。


 「爺さん、あれ見ろや」
 「おう、おう、あやぁ」
 からだにまみれておった白い粉をふるい落としたら、それは、まあ、何のことはねぇ、ただの黒ネズミだ。
 昼のうちに計った、小麦粉のついたままの桝で罠を仕掛けたので、こうなったんだと。
 
 いっちこ たぁちこ。

「シロネズミ」のみんなの声

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驚き

白ネズミが黒ねずみだったのがびっくりした( 50代 )

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