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ひこいちとたぬき
『彦一と狸』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 あったてんがの。
 昔あるところに、彦一という男があったと。頓知(とんち)のきいた面白い男だったと。
 彦一の裏山(うらやま)に狸(たぬき)が一匹住んでいて、それがまた、人をたぶらかしたりするのが大好きなやつだったと。

 ある夜のこと、彦一が他所(よそ)へ行っての帰り道に、狸が声をかけてきた。

 
 「彦一どん、彦一どん」
 「おう、だれだ」
 「おら、お前(め)んちの裏山に住んでる狸だが」
 「そうか、おれになに用があるや」
 「お前、いっち嫌(きら)いなもんは、なんだ」
 
彦一と狸挿絵:福本隆男



 「おれの、いっち嫌いなもんは、そうだなあ、まんじゅうかな。うん、まんじゅうだ。まんじゅうはおっかのうて、おっかのうて」
 「ほう、そうかや」
 こういうと狸はいなくなったと。
 
 彦一が家に帰り着くと、じきに狸が窓からまんじゅうを投げこんできた。
 彦一が、
「お、おっかね。あ、おっかね」
といいながら、まんじゅうを拾っては食い、拾っては食いしていると、狸は、ドンドコ、ドンドコ、なおも投げ込んできた。狸は、
 「そら、いい気味だ。おっかねぇべァ」
というて、まんじゅうを投げ込むだけ投げ込んで、あとは高見の見物だと。そしたら彦一はまんじゅうを腹一杯(はらいっぱい)食うて、茶ァまでいれて
 「ああうまかった。ゆかいゆかい」
というていたと。

 
 狸はそれを聞いて、
 「いや、こらぁ彦一にだまされた。まんじゅう損した。くやしいな、くやしいな。よっし、いまにみとれ」
というて、帰って行ったと。

 次の日、彦一が田圃(たんぼ)へ行って見たら、田圃の中に、石ころがたぁくさん投げ込まれていた。
 
彦一と狸挿絵:福本隆男


  彦一はでっかい声で、
 「こりゃまあなんと、石をまいておくれたお人がおる。ありがたいこった。石は三年毎(ごと)に糞(くそ)をひるそうな。石肥え(いしごえ)三年というて、田圃の中に石が入っていると、向こう三年間は肥(こ)やしをくれんでもいいだろうて。こりゃあよかった。もうかった」
というた。狸が物陰(ものかげ)でこれを聞いて、
「こりゃ、またしくじったか」
と、つぶやいたと。
 
次の日、彦一が田圃へ行ってみたら、田圃の中には昨日投げ込まれてあった石ころが、ぜーんぶ無くなっていたと。
 彦一は、また、でっかい声で、
 「いやぁ、石ころは無(の)うなったが、それでも石ころでよかった。これが、もし、馬の糞でも入っていようなら、本当、大ごとだった。馬の糞だったら田圃が駄目(だめ)になるところだった。いやぁ、よかった、よかった」
というた。

 
 そしたら、次の日、彦一が田圃へ行ってみたら、田圃の中には馬の糞がいっぱいまかれてあった。
 彦一、今度は黙(だま)って喜んでいたと。
 
 いちごさっけ 鍋(なべ)の下ガリガリ。
 
彦一と狸挿絵:福本隆男
 

「彦一と狸」のみんなの声

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