みそさざえつっよ
― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかしむかしの大昔。
森の奥で鳥の鷹(たか)たちが大勢集まって、酒盛(さかも)りを開いて、賑(にぎ)やかに飲んだり歌ったりしていたと。何でも、鳥の王様を決める前祝いだそうな。
その声が森中(もりじゅう)に響(ひびき)わたってきたので、みそさざいもこれを耳にすると、
「よし、おらも鷹の仲間に入って、ひとつゆかいにやりたいな」
と、早速鷹のところへ飛んで行って、
「なあ、鷹さん、おらもみんなの仲間に入れておくれよ」
と言うて頼んだ。
すると鷹は大笑いをして、
「何だって? お前みたいなチビ助が、わしらの仲間にしてくれってかい? このアホめぇ」
と言うて、てんから相手にしてくれない。
そこで、みそさざいは、鷹の大将に向って、
「どうしたら、仲間に入れてくれるや?」
と言うと、鷹の大将は、
「そんなに仲間になりたいんなら、この向こうの山にいる猪を、退治(たいじ)してくるがええ。そしたら仲間どころか、鳥の王様にしてやってもええど。けど、そんなチビ助のお前が猪をとることが果(はた)して出きるかな。え?」
みそさざいは、猪と聞いてびっくり。が、
「わかった。それなら退治してくるわい」
と、早速向こうの山へ飛びたって行った。
すると、ちょうどそこへ、一匹の大きな猪が、ノコノコと山を下りて来るのが見えた。
「よし、あの猪をやっつけてやろう」
と木の枝に隠れていたが、すきを見てパッと飛び出すと、猪の耳の中へ入り込んだ。そして、耳の中で大あばれ。チクチク、チクチクと突っ突いてやった。
これにはさすがの猪も苦しんで、
「ウァ―、たまらん。助けてくれ―」
と、耳の中のみそさざいを取り出そうともがいたが、足で耳を掻(か)くことが出来ない。コロコロ転げたり、あっち走り、こっち走りしているうちに、大きな岩に頭をドカ―ンと打って死んでしまった。
みそさざいは、耳から抜け出すと鷹の大将のところへ行って
「さあ、猪を退治して来た。猪は大きな岩の前に転がっとります」
と言うと、鷹の大将は鼻先で笑いながら、
「何をこの嘘つきめぇ」
と思ったが、みそさざいと一緒にその場所へ行ってみると、確かに猪は死んでいた。
「みそさざいって言うやつは智恵がある。おそろしいやつだ」
「そんなら仲間に入れてくれるなぁ」
「約束だ、仕方ない仲間にしてやらなくてはなるまい」
「あの、王様の方は・・・」
「ちょうしに乗るな、たかが猪を一匹仕留(しとめ)たぐらいで。みてろ鷹の力がどれほどのもんか見せてやる。二匹いっぺんにつかまえて見せようぞ」
そう言ったかと思うと、鷹の中で一番強い熊鷹が飛びたって行った。
すると向こうの山で、うまいぐあいに猪が二匹、並んで歩いとった。
熊鷹はバサ―ッと降りていって、両の足それぞれに一匹ずつつかまえた。
猪は驚ろいたの何の、必死になって逃げようとした。 熊鷹は何のはなすものかと一層猪の背中に爪(つめ)をたてた。さあ、猪があまりの痛さに右と左に逃げたからたまらん。その途端(とたん)、熊鷹は両足の付け根から双(ふた)つにさけて死んでしまったと。
それでみそさざいは鳥の王様になったと。
欲の熊鷹、股(また)さける、という言葉が出来たのはこれが元なんだと。
いっちこたあちこ。
みそさざえつっよ
九州の南、奄美群島(あまみぐんとう)のひとつ、徳之島(とくのしま)の母間(ぼま)あたりの集落には、昔は夜になると、“イッシャ”という小(こ)んまい妖怪者(ようかいもん)が、犬田布岳(いぬたぶだけ)から下りて来たそうな。
昔、ある山間(やまあい)に一軒(けん)の家があって、男と女房(にょうぼう)とは暮(く)らしていたと。 家の前の道、ときどき、猟師(りょうし)たちが猪(いのしし)だの熊(くま)だの獲物(えもの)を担(かつ)いで通ったと。
「みそさざいは鳥の王様」のみんなの声
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