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ひごいのおんがえし
『緋鯉の恩返し』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに貧乏な若者が住んでおったと。
 若者は川のそばに、小っぽけな田んぼを作って暮らしておったと。
 あるとき、雨が降り続いたので、田の水をはずしに行ったと。
 そしたら、大きな、きれいな緋鯉(ひごい)が川からはねあがって、田んぼの中でパチャパチャしていた。若者は、
 「お前なあ、他の人に見つかったら、焼くか煮るかして食べられてしまうぞ。早よう棲家(すみか)に帰れ」
というて、つかまえて、川へ放してやったと。
 

 
緋鯉の恩返し挿絵:福本隆男
 

 
 夏が過ぎ、秋になった。台風が来て、大雨が降ったと。
 「こんな日は飯(めし)でも食うて、早よう寝よう」
と、ひとりで雑炊(ぞうすい)こしらえて食べ、寝ようとしたら、家の外から戸を叩く者があった。
 戸を開けてみたら、きれいな娘がひとり、ずぶ濡れで立っておった。
 「雨宿りさせて下さい」
 「あ、ああ、そんなに濡れて、身体に毒だで、早よう中へ入るといいだ」
 若者は、ぼろきれを持って、濡れた着物を拭いてやったと。
 次の日は台風一過の秋晴れだったと。
 娘は朝からたすきがけで、家の内外(うちそと)を掃いたり拭いたり、片づけをしたり、まめまめ働くのだと。若者は、一晩泊めたお礼かな、と思って、
 「すまんことです」
 いうとったら、娘はその晩も泊って、次の日になっても一向に帰ろうとする気配がない。

 
 「お前(め)ぇ、泊めた礼なら、もう充分にしてもろうた」
というと、娘は、
 「私をお前さまの嫁にして下さい」
というのだと。
 「おれどこは、あまりに貧乏だから嫁をもらうなんて、あきらめてただ。食うのがやっとだけど、お前ぇさえよければ、おら、ありがてえぐらいなもんだ」
 いうて、二人は夫婦になったと。
 嫁のこしらえる料理は味がよくて、とりわけ汁物がうまかったと。

 
 ある日、若者は、
 「おれの嫁は、どうしてあんなにうまいお汁をこしらえられるのだろう」
と思うて、どう作るか聞いてみたと。そしたら嫁は、
 「いやいや、まだ駄目です。明日は、もっとおいしいものをこしらえるので、決して料理をしているところを見ないで下さい」
というたと。
 若者は、見るなと言われれば、なお見たくなった。
 そこで次の日の夕方、仕事を早めに終えて、物陰(ものかげ)に隠(かく)れて、嫁の仕事振りをこっそり覗(のぞ)いてみたと。
 そしたらなんと。嫁は、鍋(なべ)の中に赤い腰巻(こしまき)きを入れて、パチャパチャ、パチャパチャやっている。
 不思議なことをする、と思うて、よくよく見たら、鍋の中で緋鯉が、くねくね、くねくね泳いでいるのだった。
 泳ぎおわると、人間の姿になって、着物を着て、汁を煮たてたと。若者は、
 「あれや、おれの嫁は緋鯉であったか」
と、びっくりしたと。

 
 その晩、遅くなってから、嫁が若者の前に手をついて、
 「今まで永々お世話になりました。私は、お前さまに助けられた緋鯉です。あれほど見て下さるなと言ったのに、今日お前さまにお汁をこしらえている姿を見られてしまいました。今日限りでお暇をいただきます」
と、厚く礼をいうて、家から出て行ったと。
 川のところで、ざんぶと水に入ると、たちまち緋鯉の姿になって、潜って行ってしまったと。

 どっとはらえ。
 
 

「緋鯉の恩返し」のみんなの声

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