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ひのみやまいけのだいじゃ
『火呑山池の大蛇』

― 広島県 ―
話者 立上 守
再話 垣内 稔
整理・加筆 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、むかしの大むかしのことでがんすがの。
 今の広島県の芦品郡(あじなぐん)に亀が嶽(かめがだけ)という山がありまんがのう、知っちょりんさろうが。そうそう、あの山でがんよのう。あの亀が嶽の中ほどに火呑山池がありまんがの、その池に一匹の大蛇(だいじゃ)が住んでおりまぁたげな。
 この亀が嶽の向かいの柏山(かしわやま)に、これまた似たりよったりの一匹の大蛇がいまぁたげな。


 二匹の大蛇は仲良うて、おたがいに行ったり来たりしておりまいたげなが、その途ちゅうに人を襲(おそ)っておりまいた。
 
火呑山池の大蛇挿絵:福本隆男


 そがいなことが度重(たびかさ)なるもんじゃけえ、殿様は強い侍を差し向けになりまぁたげな。
 侍は、柏山の大蛇が火呑山池に行く途ちゅうをねろうて、とうとう斬(き)り殺(ころ)してしまわれたげな。
 これを知った火呑山池の大蛇は、池の底深(そこふか)く潜(もぐ)りこみ、人前に姿を見せんようになりまぁたげな。

 
 亀が嶽と柏山の間を往き来する人々が、大蛇に襲われて難儀(なんぎ)するようなことも無(の)うなりまいてしばらくたったころ、亀が嶽にある青目寺(しょうもくじ)というお寺で、毎晩(まいばん)鐘(かね)をついちょりんさった若いお坊さんが、急に姿を消して、行方(ゆくえ)がわからんようになっしもうたげな。
 「こりゃきっと、火呑山池の大蛇の仕業(しわざ)に違(ちが)いないわい」
とにらんんだ青目寺の和尚(おしょう)さんは、里の人を寺へ呼び集めんさって、人間そっくりの藁人形(わらにんぎょう)を作らせ、その腹(はら)の中に、ちょっとねぶっても命が無(な)うなる、というきつい毒薬を入れておきんさりまぁたげな。


 その夜、藁人形に布団(ふとん)を掛けて、寺の縁側(えんがわ)に寝(ね)かし、和尚さんと里の人らは物陰(ものかげ)にひそみまぁたげな。
 真夜中ごろになって、どっからともなく、シュッ、シュッと気味悪い音がして、生臭(なまぐさ)い風がお寺の本堂(ほんどう)を吹き抜(ぬ)けてきまぁたと。
 和尚さんが目をこらしてよおっく見ると、大蛇が鎌首(かまくび)を持ちあげ、眼(まなこ)を光らせ、真っ赤な舌を出し入れして、青目寺の境内(けいだい)にはいって来ますんじゃげな。
 「やれ、おそろしやのう」
と身震(みぶる)いしながら、なおも見ていると、大蛇は縁側(えんがわ)に寝ている人らしいものを見つけ、にゅうっと鎌首を伸ばし、掛けてある布団ごとゲロリ、ひと呑みに呑んでしまぁだたげな。
 ほして、火呑山池の方へゆうゆう帰っていってしまいまぁたと。


 大蛇がすっかり見えなくなると、息をひそめて物陰(ものかげ)から覗(のぞ)いとった和尚さんと里の人らは、
 「のんだぞ、のんだぞ、大蛇が毒薬を藁人形ごとのんだぞ」
と、手を打って喜(よろこ)びまぁたげな。
 夜が明けるんも待ちきれんで里の他の人達をも呼び起こし、和尚さんを先頭に、火呑山池までかけつけまいたげな。
 ほしたら、池のそばの草むらに、胴(どう)がふたかかえもあるほどの恐(おそ)ろしい大蛇が長々とのびていた。

 
火呑山池の大蛇挿絵:福本隆男

 和尚さんの仕掛けた毒薬で、大蛇はひと晩じゅう、ここでもがき苦しんだんでがんしょうのう。そのまわりの草はすっかりなぎ倒され、大きな立木の何本かは、幹(みき)がへし折られてしもうとりまいたと。


 こうして、ようようのことに大蛇に人が襲われる難儀は無うなりましたげな。
 そいじゃもんじゃけえ、柏山の大蛇が先に殺された峠(とうげ)を蛇切が峠(じゃきりがだお)、火呑山池の大蛇が死んどったところを蛇(じゃ)ずりと呼ぶようになりまぁた。
 蛇ずりの一体に生(は)える草は、今でも、まっすぐにのびんで、横に倒れて生えるといいますじゃろうがのう。
 
 やあれ かっちりこ。火の用心。

「火呑山池の大蛇」のみんなの声

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実家の近くに伝わる話で、話に出てくる山や池、寺などは現存します。双方の山はいずれも標高500mほどで、人が住む谷を挟んで、直線距離で5km程離れています。子供の頃、山の景色を思い浮かべながら聞いた思い出があります。( 40代 / 男性 )

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火呑山池の大蛇歯、毒で殺した人間????をさぞかし憎んでるだろうと思った。そのあと復習されたら嫌だからそんな事はしないようにしようと思った。

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火呑山池の大蛇歯、毒で殺した人間????をさぞかし憎んでるだろうと思った。そのあと復習されたら嫌だからそんな事はしないようにしようと思った。

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