涙が止まらない( 60代 / 女性 )
― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに忍(しのぶ)と健(けん)の姉弟(きょうだい)がおった。姉の忍は八歳、弟の健は六歳であったと。二人の両親は、三年前の大水(おおみず)で流されたまんま、今だに行方(ゆくえ)知らずであったと。
大水のとき、たまたま隣村(となりむら)のオジの家に遊びに行っていた二人は助かって、そのままオジの家に世話(せわ)になっているのだが、オジの家も貧乏(びんぼう)の子沢山(こだくさん)なので万事(ばんじ)に遠慮(えんりょ)しいしい暮らしておったと。
つらいことが重なると、姉と弟は大水で流された家の跡(あと)に来ては、優しかった父や母のことを思い出しておったと。
二人のそんな姿を見ると、大水のときに生き残った近所の人たちは、
「おうおう、また来とったか。ちょっと待っとれよ」
といって、急いで家から芋(いも)や餅(もち)を持って来、二人の手に握(にぎ)らす。
「ほれ、さぁ、さあさあ」
といってうながすのだが、二人はちょっと食べて残りを懐(ふところ)にしまってしまう。
「どうした、全部食べぇ。足りなきゃまた持ってきてやるで」
とすすめるが、二人ははにかんでいるだけだ。
「そうかぁ、オジさんとこの子ぉたちへの土産(みやげ)じゃな」
というと、二人はこくんとうなずくのだと。
「小さくとも気ぃ遣(つか)っておるのう」
といって、近所の人たちは涙(なみだ)ぐんだそうな。
ある日、また、家の跡へいっての帰りのことだった。
途中(とちゅう)で雨が降ってきた。川沿(かわぞ)いに走っていたら、忍は土手からチョロチョロ水が洩(も)れているのを見つけた。
三年前の大水のとき、父や母やたくさんの人たちが死んだのは、この土手が決壊(き)れたからと聞き識(し)っていた忍は、はっとした。
川の水を見ると、川上の山の方で大雨が降ったのか、急に水嵩(みずかさ)が増してきている。
忍は急いで辺り(あたり)の土を掻(か)き集めて穴に当てがった。が、土はすぐに流されてしまう。
穴は少しずつ大きくなってきた。
忍は、片足を穴に入れ、
「健、早く村の人たちを呼ばって来い。いそげ」
と叫(さけ)んだ。
健も、すぐに大変だということが理解(わか)って、村の方へ駆(か)けて行った。
しばらくすると、村の方で半鐘(はんしょう)が鳴(な)り、村の衆が馬にモッコを積んで馳(は)せつけた。
忍は土手の穴に胸(むね)まで体をつっこみ水を防(ふせ)いでいた。その顔の上を水が流れておった。
「忍う、すまんがもうちいっとの辛抱(しんぼう)だぞ」
といって、大急ぎでモッコに土を詰(つ)め、穴と周囲をモッコで固めたと。
穴から引き抜かれた忍は息をしていなかった。水を吐かせたり、体をこすったりして、みんなで必死に介抱(かいほう)したが、忍はとうとう息を吹き返さなかったそうな。
「三年前と同じ大事(おおごと)になるところを、忍に助けられた」
といって、村人たちは土手の上に忍地蔵尊(しのぶじぞうそん)を建てて、けなげな数え歳(かぞえどし)八つの娘の霊(れい)を弔(とむら)ったと。
いちごさけた。
涙が止まらない( 60代 / 女性 )
とんとむかし。あるところに、兄と弟が住んでおった。あるとき、兄は病気になって、ちっとも働けんようになってしまった。それで、弟は、 「あんちゃんの分まで、おれが働かないかんな」と、毎日毎日、汗みどろになって働いていた。
「しのぶ地蔵」のみんなの声
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