― 広島県 ―
語り 井上 瑤
再話 垣内 稔
むかし、広島の江波(えば)におさん狐(ぎつね)いうて、どえらい狐がおったげな。
ある日のう、江波に住んどった人が町へ買物に行って帰りよったら、その人のうしろで、
「もし、もし、ちょっと待っつかあさいや」
と言うて、子供(こども)を抱(だ)いた女の人が呼(よ)びとめるんですげな。
「どうしたんや、何か用かいのう」
と言うて、その人が立ち止ると、
「うちゃぁちょっと、しーし(しょうべん)がしたいけん。ほんのちいとでええけぇ、この子を抱いとってくれてんない?」
言うんじゃげな。
「ふーん、そがあなことなら、わけはなあけえ、抱いとってあぎょう。あんたぁまぁ、早うしんさい」
言うて、その人は女の人から子供をもろうて抱いとったんじゃげな。
ほうしたところが、なんぼうたっても女の人は戻(もど)ってきゃぁせんようのう。
「あの女子は、なした長ぁ小便をひりゃがるんかいのう。早う来りゃええのに」
そう言うて、ひょいと子供の顔をのぞきこんでみたら、こんなぁ、まぁ、かぁ、なんじゃった思やあ?(あんたは、いったい、なんだと思うか)
子供じゃ思うて抱いとったなぁ、大けな石じゃったんじゃげな。
たまげたよのう。
それがまた、どひょうしもなあことに、その人をだまくらかあたなぁ、江波にすんどるおさん狐じゃったんじゃげな。
おさん狐いうやつは、どがいなことをやらかしゃがるや、わかったもんじゃなぁで。
こがいなこともあるんで。
やっぱり江波の人じゃったげなが、夜おそうに歩きよったら、竹藪(たけやぶ)ん中から赤子の泣き声が聞こえてくるんじゃげな。
それが、かぁ(まぁ)、
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
言うて、火がついたみたいな泣き声を出すんじゃげな。
ほいじゃけえ、通りょった人も、
「いとおしなげ(かわいそう)にのう、捨子(すてご)じゃぁあるまぁか」
思うて、竹藪ん中へはいって赤子を拾うと、家につれて去(い)んだんじゃげな。
ほうしたところが、家に帰ってみたら、赤子じゃ思いよったんが、これもまた、大けな石じゃったげな。
あずーたれらしゃぁがるよのう。
かんかんになったその人は、
「ようし、江波のおさん狐めや、今度出会うたら、ぶちくらわしちゃるんじゃけぇのう」
言うたげな。
あんたらも、江波のほうへ行って遊びようると、おさん狐にだまくらかされて、皿山の中へつれて去(い)なれるでよう。
気いつけぇや。
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むかし、むかし、あるところに太郎狐と治郎狐の兄弟狐があったと。ある日のこと、二匹が連れだって山道を歩いていたら、道端に握り飯が二個、竹の皮に包まれて落ちていた。いい匂いだと。
「赤ん坊に化けるおさん狐」のみんなの声
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