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みみだけごくらく
『耳だけ極楽』

― 群馬県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、あるところに根性曲(こんじょうま)がりで手前勝手(てまえかって)な婆(ば)さがおったと。
 この婆さが急の病(やまい)でコロッと亡くなった。地獄落ちだと。
 地獄へ行く道のかたわらに、お地蔵(じぞう)さんが立っておらした。婆さは、
 「お地蔵や、極楽(ごくらく)いく道はどっちだべ。俺を極楽へ連れてって呉(け)ろや」
と聞いた。
 お地蔵さんは何もいわん。

 
耳だけ極楽挿絵:福本隆男

 「お前(め)に似(に)た辻(つじ)のお地蔵に団子(だんご)あげたことあったっぺよ」
 「何とか言えやい。覚えてねぇか。ほれ彼岸(ひがん)の日、墓参(はかまい)りに行ったら、よその墓に供えてあったんでお下がりにもろうて、ちゃんと手ぇ合わせたぞ。食おうとしたらちいっと汚れていたんで腹(はら)病(や)んだら困っぺ。捨てるのももったいねぇから、お前に、いやお前に似たお地蔵だけども、あげたでねえか」


 あまりに言うので、とうとうお地蔵さん、口をきいたと。
 「それほど行きたいか」
 「行きたい」
 「そうか、なら、どっこいしょと、こっちだ」
 お地蔵さんに連れられて極楽につくと、大きな池の中に蓮(はす)の花がポン、ポン音さして咲いたと。
 池のほとりに大きな倉が建っていた。お地蔵さんは婆さをその倉の中に連れて行った。


 倉の中にはたくさんの箱(はこ)が並んであり、その中に数の子みたいない形のものが、きちんと納(おさ)まってある。ひとつひとつに人の名前がついていたと。婆さが、
 「これは何だべ」
と聞くと、お地蔵さんは、
 「人間の舌だ」
というた。


 次の倉へ行ったら、今度は、しいたけのようなものが数えきれないほど名前が書かれて並んでいた。
 「これは何だべ」
 「人間の耳だ」
 三つ目の倉の前まで来たら、そこを通り過(す)ぎて、さっききた道へ帰りかけたと。
 「あや、お地蔵や、どこへ行くだや」
 「婆さの望みは叶(かな)えた。極楽を見たな」
 「はえ」
 「では婆さは、来た道を戻って地獄(じごく)へ行かっしゃい」
 「そんな意地悪(いじわる)言わねで、俺をこの極楽へ置いて呉だんせ」
 「それは出来ん。婆さは極楽にすむようにはなっていない」
 「団子あげたっぺ」
 「それほど言うなら婆さの耳だけここへ置いとこう。婆さは生きとるとき、いい事はひとつもしなかったが、よい事を聞くだけはしたようだから、耳だけあの倉に住まわしてやろうかえ」

 
 お地蔵さんがこう言うたとたん、婆さの耳だけ離(はな)れて、木の葉のように倉めがけて飛んで行ったと。
 
耳だけ極楽挿絵:福本隆男

 
 いちがぽんとさけた。

「耳だけ極楽」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

長い人生でいいこと何もしてないのおもろい( 80代以上 / 女性 )

驚き

そんな簡単に耳がとれて、びっくりしました。( 10代 / 女性 )

怖い

耳が取れてかなり怖かったです。やっぱり悪い事ばかりしていると最終的にはバチが当たるのだなと思いました。神様はちゃんと見ているのですね。( 30代 / 女性 )

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