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ねことばけねずみ
『猫と化け鼠』

― 岐阜県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 昔、ある村に小さな寺があって、気の良い和尚さんと寺男が住んでいたと。
 ある日、和尚さんが寺の前の川で洗い物をしていたら、仔猫(こねこ)が板に乗って流れてきた。
 
猫と化け鼠挿絵:福本隆男


 「おりょ、可哀(かわい)そうに、わりゃあ捨てられたのかよ」
 和尚さんは仔猫を拾って寺へ連れ帰ったと。
 可愛(かわい)がって、可愛がっていたら、やがて、寺じゅうの鼠(ねずみ)をとってくれる働き物の猫になったと。
 ある年のこと、この寺へ旅の雲水(うんすい)がやってきて、何日が泊まることになったと。
 次の日から、雲水は和尚さんのうしろに座(すわ)って、朝晩の勤行(ごんぎょう)をはじめた。
 猫は、その間かたときも和尚さんのそばを離(はな)れなかった。読経(どきょう)しながら雲水が腰(こし)を浮(う)かすと、猫は逆毛(さかげ)を立てた。勤行の間、そんなことが何度もあったと。


 次の日、雲水は村の家々(いえいえ)を托鉢(たくはつ)しに出掛けた。寺男は庫裡(くり)で片づけ仕事をした。ひとだんらくして居眠(いねむ)りをしていたら、猫も側(そば)で丸くなったと。
 するとそこへ隣(となり)の猫がきて、
 「今日暖(あたた)かいから、どこぞへ遊びに行かんか」
と誘(さそ)いかけた。寺の猫は
 「いい天気が続くで遊びに行きたいけども、この二、三日はどうしても寺をあけられん。この寺に災難があるかも知れんのじゃ。大恩(たいおん)のある和尚さんの身に何かあると大変だで」
 「ふーん、俺が手伝うこと何かあるかい」
 「今はまだないよ」
 二匹の猫がこう話しているのを、目を覚ました寺男が聞いた。
 寺男は和尚さんに話しをした。和尚さんは、
 「災難とな。はて、何じゃろ。この村にゃぁ、よこしまな心を持つ者は一人もおらんし、ま、心配せんでもええ」
というて、のんきなもんだ。


 その日も暮れて、みんなが寝静(ねしず)まった真夜中頃(まよなかごろ)、突然(とつぜん)、本堂で障子(しょうじ)がふっ飛ぶ大きな音がした。争(あらそ)っている猫の鳴き声と、鼠(ねずみ)のものすごい声もする。
 和尚さんと寺男がとび起きて、灯火(あかり)を点(とも)して本堂へ行って見ると、猫が、雲水の衣を来た牛ほどもあるでっかい鼠とかみ合いをしていた。
 和尚さんと寺男は、昼間の猫の話がやっとわかった。年を経(へ)た鼠が雲水に化けて、和尚さんを食い殺しに来ていたのだった。読経のとき、和尚さんが襲(おそ)われるのを、この猫が防(ふせ)いでいたのだったと。


 猫と大鼠(おおねずみ)は互(たが)いに飛びつき、噛(か)みつき、ひっかきしているが、なにせ大っきさが違う。
 今にも猫が負けるんではないかと、和尚さんと寺男がヒヤヒヤしていたら、そこへ、隣の猫が加勢(かせい)しにやってきた。
 二匹の猫は前から後ろから、右から左から攻めたて、朝方まで闘(たたか)って、ようやくけりがついた。化け鼠は死んだが、二匹の猫も大怪我(おおけが)を負って、息も絶え絶えだと。
 
猫と化け鼠挿絵:福本隆男


 和尚さんと寺男は猫を抱きかかえて、
 「ようやった」「えらかった」
というて、なでてやるのがせいいっぱいだ。
 二匹の猫も、その日のうちに死んだと。
 命を助けてもらった和尚さんは、二匹の猫を埋葬(まいそう)し、猫供養塔(ねこくようとう)を建てて、手厚く弔(とむら)ったと。
  
 しゃみしゃっきり。

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