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きつねのよめいりとじんちゃ
『狐の嫁入りと爺ンちゃ』

― 福島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、福島県の浜通(はまどう)りにある村に、ひとりの爺(じ)ンちゃが住んであった。
 お正月も近くなったある日、町へ買い物へ出かけたと。
 その戻り道(みち)でのこと。
 爺ンちゃは買いこんだいろんなものを背中に背負(しょ)い、片手に荒巻(あらまき)き鮭(じゃけ)をぶらさげ、もう片手に提灯(ちょうちん)を持って、ざとうころばしに差しかかった。左手は夏井川(なついがわ)で、右手は山の寂(さび)しいところになっており、昔、ざとうがよく転んだために、そう呼ばれるようになった所だ。

 
 あたりはもう真っ暗、足元(あしもと)を照らす提灯のあかりをたよりに、ここからは、そろりそろり行かにゃぁ、と気を引き締(し)めたとき、うしろの方で何やら大勢(おおぜい)の人が来る気配(けはい)がした。
 振り返ると、二丁ほど離(はな)れたところをたくさんの提灯が登ってくる。
 どうやら嫁入(よめい)り行列のようだ。
 
 「こんな時間に珍(めずら)しい。そうじゃ、あの人たちと一緒に行けば淋(さび)しいざとうころばしも賑(にぎ)やかに越すことが出来るわい。さて、一服つけて待つか」
というて、道の脇(わき)の土手(どて)に腰を下(お)ろし、塩鮭(しおじゃけ)を片わらに置いて、きせるの煙草(たばこ)を吸いはじめたと。
 「うーん、なかなか美しい行列なもんだ。つのかくしをしているから、あれがお嫁さんかな。タンス、長持ちもある。豪勢(ごうせい)なもんだ」
と、行列をながめながら待っていたが、そのうち妙(みょう)なことに気がついた。いくら待ってもその提灯行列が、なかなかこっちに近づいてこんのだ。いつまで経っても、向こう二丁ぐらいのところを歩いている。道は一本しかないのに、これは奇妙だ。

 
 「さては、あの行列は狐(きつね)の嫁入りかな。うかうかしていると、正月仕度(じたく)をとられてしまうわい」
と急いで立ち上がった。もいちど振り返ったら、提灯行列の灯(ひ)がすっかり消えて、真っ暗闇(くらやみ)になっておった。
 「やっぱり狐の嫁入りであったか。早く気がついてよかったわい」
というて、ほっとして歩き出したと。
 しばらく行くと、行く手に提灯の明かりが見えた。夜目(よめ)をすかして見ると、娘がひとり立ち止まって、爺ンちゃを待っているふうだ。
 近づくと、娘は、
 「どうも寂しくて困っていました。爺ンちゃ、どうか送って下さい」
という。
 爺ンちゃは、淋しいざとうころばしを娘と行けるので心楽しく思い、二人連れだって行ったと。
 ざとうころばしも無事に過ぎ、ほっとして、後ろからついてくる娘に、
 「いま、狐の嫁入りを見た。いやぁきれいな行列じゃった」
と話しかけていると、行き手に、見なれない橋があった。


 「はて、こんなところに橋があったかな」
といぶかりながら、その橋を渡ろうとして一歩踏(ふ)み出した。
 そのとたん、橋は消え、爺ンちゃは、あっという間に川にはまってしまった。
 荒巻き鮭と、若い娘は、どこかに消えてしまったと。

 ざっとはらった。

「狐の嫁入りと爺ンちゃ」のみんなの声

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