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かわうそのおんがえし
『かわうその恩返し』

― 愛媛県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに貧(まず)しい男がおって、野良仕事(のらしごと)をして暮(く)らしておったと。
 あるとき、男は牛(うし)に草を食べさせようと、家から少(すこ)し離(はな)れたところにつないでおいたと。
 ほしたら、そこへいたずら者のかわうそがやって来て、おもしろ半分に牛の背(せ)に飛(と)び乗(の)ったり、しっぽを引っぱったりして遊んだそうな。しまいには、綱(つな)を引きずって川の方へ連(つ)れて行こうとして、その綱を自分の体にくくりつけて歩きはじめたと。ところが、牛の方は草を腹いっぱい食べたので牛小屋(うしごや)へ帰ろうとする。
 かわうそは、ぐいぐい引きずられて、綱をとくにとかれず、とうとう牛小屋まで連れて行かれたと。


 この有(あ)り様(さま)を見た男は、
 「こりゃ、たまげた。りこうなかわうそがうちの牛に捕(つか)まるとは」
と、驚(おどろ)くやら、あきれるやら。
 「どうれ、今夜はかわうそ料理といくか、こりゃ、かわうそ、皮(かわ)をはがれるときは痛(いて)えぞお。ベリッ、ベリベリッて」
と、おどかすと、かわうそは、必死(ひっし)になって、
 「もう、これからは決(けっ)していたずらはしませんから、どうぞ助(たす)けてくださあい」
と、あわれな声で泣(な)いて頼(たの)むんだと。
 「本当にせんか」
 「はい、約束(やくそく)しますう」
と言うので、綱をほどいてやったと。
 「ありがとうございました。お礼(れい)におらの出来ることをしますけん。この家の軒(のき)にものを引っかける鉤(かぎ)をつけておいてください」
と言うて、去(さ)って行ったと。


 次の日の朝、男が軒を見ると、大きな鯛(たい)が鉤に引っかけてあった。
 男は喜んで、めったなことでは食べたことのない、その鯛を家じゅうで食べたと。
 次の日の朝も、その次の日も、毎日、毎朝、鯛が引っかかっておったと。
 毎日続(つづ)く、かわうそのお礼に、男はつい欲(よく)を出した。
 もっと大きな鉤をつけたら、何匹(なんびき)も鯛を引っかけてくれるのでは……と思って、以前、山で捕(と)った鹿(しか)の角(つの)を、軒につけたと。
 ほしたら、それからはさっぱりで、毎朝待てど暮らせど、鯛はおろか、小魚(こざかな)一匹引っかけてくれなくなったと。

 かわうそは、鹿の角が怖(こわ)かったそうな。

  むかしこっぷり。

「かわうその恩返し」のみんなの声

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