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きつねのしかえし
『狐の仕返し』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに婆さまがあったと。
 婆さま、田んぼへ行って草取りしたと。
 昼どきになったので弁当を食うていたら、一匹の狐(きつね)が田んぼの畔(あぜ)の上をゆっくりゆっくり歩いて近づいてきた。背中の毛が白っぽくなった年寄り狐だったと。 それが、婆さまから五、六歩位しか離(はな)れていない所にチョコンと座(すわ)って、鼻をヒクヒクさせた。婆さま、
 「狐や、お前、年ぃ取ったので食いもの獲(と)られねぇのか」
というて、ミガキ鰊(にしん)をちぎって、残りの御飯と一緒にくれてやったと。

 
 狐の仕返し挿絵:福本隆男
 

 婆さま、次の日も家にあった残りものを持って田んぼへ行き、狐にくれてやったと。
 そしたら、婆さまが草取り終えて月星ながめながら帰るとき、その狐が家まで送ってくれたと。 

 
 次の日、婆さまは他の用事があって田んぼへ行かなかった。
 狐が田んぼへ来たら、婆さまはいなくて、近くの田んぼで隣(となり)の婆さまが弁当食べていた。
 狐は隣の婆さまのところへ行ったと。そしたら、隣の婆さま、
 「こん畜生(ちくしょう)」
って、草刈(か)る鎌(かま)投げてきたと。
 

 次の日、狐は朝早くに田んぼに行き、昨日隣の婆さまが捨てた魚の骨(ほね)をさがした。
 そしたら隣の婆さまが来て、ふところから石をとり出して、
 「こん畜生」
ってぶつけてきた。
 年取った狐は避(よ)けられなくて後足にぶち当たったと。狐はびっこをひきひき山へ逃(に)げた。


 その次の日、隣の婆さまは日が暮れたのに家に帰って来なかった。息子(むすこ)が心配して田んぼへ行ってみたら、隣の婆さま、木の下でフキの葉っぱを幾枚(いくまい)も並(なら)べて、一人でブツブツつぶやいていた。息子が、
 「婆さま、何してる」
ときいたら、
 「盆(ぼん)の浴衣(ゆかた)みつくろってるところだ。これはどうだ」
っていうて、フキの葉っぱ一枚手にとって息子に見せたと。

 その次の日、息子が、婆さまに、
 「今日は田んぼへ行くな」
というたら、婆さま、
 「今日はうんと早く帰るから心配(しんぺえ)いらね」
というて、出かけた。ところが、月星出たのにまだ帰らん。息子、またさがしに行った。
 隣の婆さま、裸になって用水路のセキに漬(つ)かっていた。


 「婆さま、何してる」
ときいたら、
 「沢の湯さ入ってる。いい気持ちだぁ、あずましい」
っていうた。息子は婆さまを連れて家に帰ったと。して、女房(にょうぼう)どんに、
 「これからは、婆さま一人で外さ出されないな」
となげいたら、女房どん、
 「何とかしなきゃ」
というた。 
息子は、
 「よし、明日、俺が婆さまのなりして行ってみる。狐出てきたら捕(と)っ掴(つか)めいて、叩(たた)き殺してやる」
っていうた。

 次の日、息子は婆さまの着物きて、婆さまの菅笠(すげかさ)かぶって朝早うに田んぼへ行き、草取るふりしながら狐の来るのを待っていたと。


 家では女房どんと婆さまが、狐汁にして食うてやるべ、とて、息子が狐を捕っ掴まえて、たないで来るのを、いまかいまかと待っていたと。そしたらそこへ、
 「この家(え)の息子、田んぼでケガしてしまって、歩けなくなっているぞぉ」
って、知らせに来た人あった。
  女房どんと婆さま、そら大変だぁって、近所の人(ひと)幾人(いくにん)も借りて、戸板たないで田んぼへかけつけた。息子は田の畔に腰掛(こしか)けていたと。女房どん、
 「どこケガした」
ってきいたら、息子、きょとんとして、
 「俺、どこも何んもケガしとらんぞ」
って、こういうたと。
 
 とっちぱれ。

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